研究実績の概要 |
液体は化学反応や物質輸送の場として広く利用されているが、その内部におけるイオンや分子の溶媒和状態・動的挙動の不均一性および微小スケールメカニズムの理解は未だ不十分なままである。ここで本研究では、高い空間分解能を有する走査透過型電子顕微鏡法(STEM)を使用して、原子分解能での液体の観察手法の確立、および内部で生じる現象の機構解明に取り組んでいる。これまで我々は、電気化学デバイスの電解質や抽出溶媒などとして期待されるイオン液体の薄い液体膜試料を作製する手法を確立し、1年目にはイオン液体中に分散した金やヨウ素の単原子イオンを原子分解能で観察、さらにはそれらの動的挙動を追跡することに成功している。2年目はこれを引き継ぎ、下記の4テーマについて研究および発表を行った。 1, 重原子ほど明るく観察できる高角度環状暗視野(HAADF-)STEMを使用してイオン液体C2mimTFSI中における金単原子イオンの挙動を解析し、液体中における物質拡散の活性化エネルギーを画像1枚から見積もることに成功した。さらに、理論と比較することで観察時の電子線ダメージを評価した。 2, HAADF-STEMによりイオン液体C2mimTFSIを観察し、液体バルク中のアニオン分子(TFSI-)の分布マッピングを行った。 3, HAADF-STEMによりイオン液体C8mimBrを構成する臭化物イオンの単原子観察を行い、動的な挙動を解析した。 4,上記イオン液体に外から金イオンを添加し、臭化物イオン、金イオン、母相液体のナノドメイン構造の3つを同時に観察し、単原子イオンの溶媒和状態やイオン毎の運動挙動の差異、さらにはイオンとドメイン構造の挙動相関性の解析を行った。
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