研究課題/領域番号 |
15J11148
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
藤崎 渉 東京工業大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | ジュラ紀前期 / トアルシアン / 海洋無酸素事変 / 超海洋パンサラッサ / 遠洋深海堆積物 / オスミウム / 大規模火成活動 |
研究実績の概要 |
研究題目であるトリアス紀中期からジュラ紀前期の古海洋環境に関して、本年度はジュラ紀前期の古海洋復元に着手した。ジュラ紀前期トアルシアンは、海洋が全球的に無酸素状況下に陥るという海洋無酸素事変(T-OAE)が起きた事が知られており、その原因については当時の超大陸パンゲア分裂に伴う巨大火成活動によるものと解釈されている。しかし従来の研究では、分析点の時間解像度が数十万年スケールであり、火山活動のような数万年スケールのイベントを捕えられず、さらにその巨大火成活動が全球規模で海洋に影響を与えたのか不明であった。そこで私は、微化石記録で堆積年代が数万年スケールで詳細に決められており、かつ全球的な情報を保持している、愛知県犬山地域に産出する1層準約1-2万年の遠洋堆積物チャートに着目した。また火成活動のシグナルを検出するのには海洋での滞留時間が約4万年と短いOs同位体が有効である。私は表面電離型質量分析計を用いて1層準毎に採取してきた岩石試料のOs同位体比分析を行った結果、Os同位体比はT-OAE1、2直前に数万年といった短い期間で急激に減少した。これは当時の超大陸パンゲア分裂に伴う巨大火成活動の年代と整合的であり、全球規模における巨大火成活動がT-OAEの直前におきていた事を世界で初めて示した。一方T-OAE1、2の期間中はOs同位体比が上昇し、特にT-OAE2の期間中は全球的に大陸地殻風化が顕著だった事が明らかとなった。またOs同位体を同層準から得たC同位体と比較すると、Os同位体比が変動した後、チャート層3-5枚後にC同位体比が同調して変動し、OsとCの海水滞留時間の差を表していると考えられる。以上のように私は無酸素事変、Os同位体比(火成活動)及びC同位体(生物活動)の3つの前後関係を、数万年といったこれまでに例がない時間スケールで明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
私はトリアス紀中期からジュラ紀前期の古海洋環境を解明するため、地球化学的手法を用いた研究を行っている。今年度、私が特に着目したのはトアルシアンにおける海洋無酸素事変であり、その原因を明らかにするため、従来よりも緻密に採取した愛知県犬山地域に産出する遠洋堆積物チャートについて、Os同位体比を測定した。Os同位体比の測定は複雑な化学処理を必要とする難易度の高い分析であり、大量の試料を分析することは時間的にも精神的にも大きな負担となる。私は1年間にわたり着実に分析をすすめ、高い時間分解能を持つ堆積岩のOs同位体比変動を得ることに成功した。その結果、Os同位体比の変動が大規模火山活動や、その後の温暖化に伴う大陸風化と極めて整合的であることを初めて実証した。これは大量の分析を1年という短期間で完遂させた結果であり、予想以上の成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
化石記録から生物種の9割以上が死滅したとされる顕生代最大規模の生物大量絶滅は古生代-中生代境界(ペルム紀-三畳紀境界)時に起きた事が知られているが、生物絶滅とほぼ同時期に全球的な海洋無酸素事変(OAE)の出現も報告されており。このOAEは断続的ではあるが前期ペルム紀チャンシンジアンから三畳紀中期アニシアンまでのおよそ1000万年続き、他の時代のOAEの期間(〜100万年)と比較し10倍長く、その原因を解明する事は急務である。ペルム紀-三畳紀境界のOAEの原因については当時の超大陸パンゲア分裂に伴う巨大火成活動によるものと解釈されているが、地球化学的手法を用いて火成活動の活動時期、規模等を推定した研究例は今までに存在しない。今後私はペルム紀-三畳紀境界に生じたOAEの最後の部分である三畳紀中期アニシアンでのOAEについて、その原因をジュラ紀前期トアルシアンで生じたOAEの原因をOs同位体を用いて制約した手法と同様にして、三畳紀中期アニシアンに適応する予定である。
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