本研究の目的は、従来の理論研究では困難だとされていた流動的な社会関係や集団において人々が協力し合うためのメカニズムを解明することである。従来の研究では、人間関係が流動的な場合、情報の流れが制限されたり、非協力的な行動に対する罰則行動がうまく機能しなかったりするという問題が指摘されていた。しかし、現代社会においてはそのような状況でも人々の助け合いが行われている例が確かに存在する。そのため、従来の理論を超えて人々が助け合うためのメカニズムを解明することは現代的な意義が高いと思われる。 研究の基本的な方向性としては、まずは流動的な社会関係や集団において人々が協力し合っている事例を詳細に調査し、その知見をもとに、ゲーム理論による分析を行って理論化を行う。次に、理論をもとに量的なデータを収集し、統計的に分析し、理論の検証を行う。さらに、その結果をもとに必要があれば理論を修正し、流動的な社会関係や集団において人々が協力し合うための経験的に妥当な包括的理論を構築することを、最終的な目的としている。そのために本研究では具体的に、コミュニティ・ユニオンで行われている助け合いを対象として、その助け合いが維持されるメカニズムを理論的かつ実証的に分析する。 本年度は、昨年度から継続して収集している助け合いのデータを分析することに集中的に取り組んだ。時系列的な人々の相互作用を統計分析するのは統計的には、内生性などさまざまな困難が存在する。そのため、最新の統計手法を習得し、何種類かの統計手法を試行錯誤で実行した。たとえば、交差ランダム効果入りのロジスティック回帰分析、条件付きロジスティック回帰分析(固定効果入り)などである。さらに、ネットワーク分析の分野で行われている指数ランダムグラフモデルも行い、どれも主要な結果に違いがなく、ロバストな分析となっていることが確認できた。
|