本研究では、マグネターに代表されるような、磁気エネルギーを解放することで輝いていると考えられる天体について、その磁場構造の解明を目指して研究を行っている。昨年度は、マグネター4U 0142+61の硬X線が見せる位相変調に着目し、その振幅が2007年から2013年にかけて変化していることを突き止めた。このような位相変調は、強力な内部磁場によってレモン型に歪んだ星が自由歳差運動した結果、自転周期と歳差周期の「うなり」によって引き起こされたと解釈される。しかし、振幅の変化が何に依存しているかは必ずしも明らかでなく、その理解のためには物理的な放射モデルを構築する必要があった。 そこで本年度は、自由歳差運動するマグネターからの放射の時間変化を数理的に計算し、また代表的な場合については解析解を求めることで、パルスの位相変調パターンのモデリングを行った。その結果、位相変調のプロファイルが、星の変形度や放射の傾き、自転軸と歳差軸のなす角などに依存して変化することが明らかとなった。このモデルを用いると、4U 0142+61で見られた振幅の変化は、硬X線の放射方向が極から赤道に向かって移動したことに対応すると考えられる。また、自転軸と歳差軸のなす角について、比較的大きな値(> 45度)である可能性が高いという示唆が得られた。これらは、放射方向や自転軸の傾きを定量的に推定する世界初のアプローチであり、マグネターの硬X線放射機構や磁場構造の解明につながると期待される。 研究のさらなる発展を見込み、開発に携わってきた「ひとみ」衛星は、2016年2月に打ち上げられたが、同3月にトラブルにより通信不能に陥った後、同4月に運用停止が決定された。このため本年度は、検出器が稼働していた約1ヶ月間に取得されたデータを活用し、搭載検出器の性能評価を進め、サイエンス成果の創出に貢献した。
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