研究実績の概要 |
本年度は、これまでの単核錯体から、一次元錯体へ分子設計の幅を広げ、核酸塩基であるアデニン(A)およびチミン(T)を導入することを試みた。元性を有する錯体への核酸塩基の導入は、核酸塩基の導入位置や数を調整することで、分子の集積方向を制御することに繋がり、分子集積に異方性を加えることが可能となる。 本研究では、アデニンおよびチミンそれぞれにカルボン酸を導入したA-C2-COOHおよびT-C2-COOHを合成 し、銅イオンを用いて錯体合成を行った。架橋配位子として4,4'-ビピリジン(bpy)を用いることで一次元錯体 の合成を行った。拡散法を用いることで単結晶を得ることに成功し、[Cu2(R-C2-COO)4](bpy)2の組成を有している ことが分かった。ここでは、カルボン酸架橋された銅2核錯体がビピリジンで一次元に連なった相互倣合(CID) 型構造を形成していることがわかった。さらにこの一次元錯体は隣接する分子と塩基対を形成することで集積化 していた。対照実験として核酸塩基を導入しない場合およびビピリジンを導入しない場合においても錯体合成も 行った。核酸塩基を導入しない場合においてもどピリジン架橋の一次元錯体が得られたが、集積方向はランダム であった。一方、ビピリジンを導入しない場合でも、銅2核錯体が得られ、分子は核酸塩基の水素結合によって 集積していたが、集積方向はランダムであった。すなわち、核酸塩基を導入したビピリジン架橋によるCID型錯 体においてのみ一次元構造が同一方向に配列した集積構造を作ることが明らかとなった。この設計指針を利用すれば、金属イオン種を様々に変えることで、磁気特性や誘電特性など物性の制御も期待できる。
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