研究課題/領域番号 |
15J11425
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神元 健児 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | イメージング / モデリング / シミュレーション / 増殖 / 不均一性 / 上皮細胞 / 胆管 / 肝臓 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、激しく増殖・リモデリングを起こす組織として胆管上皮組織をモデルとして用い、その構成細胞一つ一つの振る舞いに注目することで、上皮組織のリモデリングの基本原理を明らかにすることを目指した研究である。 我々は独自のイメージング技術を開発し、胆管上皮組織の増殖およびリモデリングの様子を3次元的に可視化することに成功し、胆管上皮組織のリモデリングは他の上皮組織の変化と比べ、量的・質的に極めて激しく起こることを示してきた。すなわち、胆管上皮組織のリモデリングは組織構造の維持や変化を解析する際に優れたモデルになり、基礎生物学への貢献が期待される。また、このモデルはヒトの病理で多くみられ、胆管ガンや肝細胞癌の前段階としても知られるため、ヒトの病態の基礎原理の解明に寄与することが期待される。 申請者らはマウスモデルをもちいて、生体内の一つの細胞の振る舞いを追跡するイメージング系を構築した。そこで得られた細胞の動態の定量的なデータを説明できるような新たなメカニズムを提唱するため、コンピューターシミュレーションを用いたモデル化を行い、独自のモデルを構築することに成功した。これにより詳細に細胞の状態の変化を把握することや、これからどのように増殖していくのかについての予測が可能になり、前述の分野への広い貢献が期待される。 また、本研究計画は2つの独立した研究計画AとBで構成されるが、研究計画Bで示した項目についての期待以上の成果が得られたため、研究計画Bを優先的に実行している。その結果、胆管上皮組織の複雑な構造を規定する原因の一つの特定に成功した。これによりこれまで観察した現象と遺伝子機能との関連が詳細に解明されることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
結界①「単一細胞の運命の定量とコンピューターシミュレーションによるモデル化」 申請者らは胆管上皮細胞の増殖様式を解明するため、独自のアッセイ系の構築に成功し、in vivoで細胞分裂の回数や組織中の位置、構造などを定量することに成功していた。このデータを元に、簡易な増殖の理論モデルを作っていたが、そのモデルによって実際の実験データがどの程度説明できるのかを確かめるため、マルコフ・モンテカルロ法をもちいたシミュレーションを行い、実際の実験データとの当てはめを行った。その結果、最終的に実験データを高い精度で再現できる理論モデルの構築に成功し、またこの理論モデルの応用から、増殖のタイミングや個々の細胞の運命の転換に関するユニークなデータを新たに得ることに成功した。 結果②「肝細胞との相互作用による胆管上皮組織の増殖・形態形成の解明」 本研究課題の申請時の研究方法の項目Bで示した実験を行った結果、胆管上皮組織の増殖と組織形態に影響を与える遺伝子候補の中から、radixinが非常に重要な役割を果たすことを示す結果が得られた。これにより、申請者らが解析していた胆管上皮組織の組織構造変化の新しい意義の解明に大きく貢献することが期待されるため、当初の最も大きい目標の一つが達成されることが見込まれている。 これまでの結果を国内学会で発表した。また、論文投稿へ向けて準備をすすめており、予定以上の研究の成果が見込まれている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、(1)単一細胞追跡系とコンピュータ・シミュレーションによる増殖機構のモデル化についての解析を終了し、論文投稿中である。本年度前半までに受理されることを想定し、論文投稿の追加実験等の作業を進めている。 本申請課題は研究計画AとBに別れ、研究計画Bにおいて想定以上の結果が得られているため、この結果についても論文投稿準備をすすめている。以下、その詳細を示す。研究計画Bでは、隣接する細胞との相互作用や細胞の形態に注目して、組織リモデリングに関わる可能性のある候補遺伝子群の機能評価を行うものであり、その際にこれまで構築した独自のイメージング系を用いる。これまでに、胆管上皮組織の増殖やリモデリングには、必ず隣接する肝細胞の毛細胆管と呼ばれる構造の変化が起こっていることが判明した。また、その際に重要な遺伝子radixinの特定に成功した。これは、CRISPR-Cas systemという遺伝子ノックアウト方法を用いたin vivoでの遺伝子ノックアウト実験から得られた結果である。今後、この遺伝子をノックアウトした際の組織の状態を詳細に解析する。また、実際の病理モデルに置いてもRadixinのタンパクの状態に異常が見られることを発見したが、その異常の原因を詳細に調べる。 先に結果が出た上記の研究計画Bを優先的に行い、着実な成果を出すことを目標としたが、研究計画Aも続けて実行する。研究計画Aは、機能遺伝子のスクリーニングという役割があったが、研究計画Bで目標とする機能遺伝子が既に得られているため、仮に実行に何らかのトラブルが生じたとしても本研究計画に支障が出ることはない。今後は研究計画Aの方針を少し変更し、研究計画Bのサポート的な位置づけとして研究をすすめる。
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