研究課題/領域番号 |
15J11445
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
皆川 和成 東京工業大学, 総合理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | プラスチック光ファイバ / 温度計測 / ブリルアン散乱 / ポリマー物性 / 吸水率 |
研究実績の概要 |
湿度(コアの吸水)がプラスチック光ファイバ(POF)中のブリルアン散乱に基づく温度測定にどの程度の影響を与えるか明らかにするため、ポリメチルメタクリレート(PMMA-)POFにおいて、コアの吸水率がブリルアン周波数シフト(BFS;POF中のブリルアン散乱に基づく温度測定において、このパラメータの値を計ることでPOFの温度が推定される)に与える影響を調査した。 BFSは吸水率の増加に伴い単調に減少した。基本的に、温度が高くなる程同じ吸水率でもBFSの変化量は大きくなった。吸水率が1.5%以下のときは、吸水に伴うBFS変化量が吸水率にほぼ線形に依存することが確認された。このときの傾きは、40、60、80 ℃でそれぞれ約-47、-124、-225 MHzだった。また、コアの吸水率が飽和したとき、BFSの変化量は40、60、80 ℃でそれぞれ約158、285、510 MHzであった。これらのBFS変化は、それぞれ約9、16、30 ℃の温度変化が起こったときに生じる反応と等しい。以上の結果から、POF中のブリルアン散乱に基づく温度測定においては、測定誤差の拡大を防ぐためPOFの吸水対策が必要であることが明らかとなった。また、吸水によりBFSが単調に変化することから、PMMA-POFを基に分布型の水分センサを構成できる可能性も示された。 このような結果が主にどのようなパラメータの変化に起因するかを特定するため、吸水に伴いPMMA(コア材料)の屈折率と密度、ポアソン比、ヤング率が、吸水率が0%のときと60 ℃で飽和した後とでそれぞれおよそ何%変化したかを測定した。4つのパラメータはそれぞれ約-0.1、-0.3、0、-11%増加した。これらの結果から、ヤング率の変化が主な原因であるという結論に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スケジュールの通りに進んだ研究項目もあればそうでない研究項目もあり、加えて後に計画していた研究項目が先に遂行されるということも起きたためである。 当初の予定通り、吸水量とブリルアン散乱信号の変化の関係を定量的に評価することは完了した。しかし、この観測された現象の再現性の確認や、吸水したポリマーにおける物性変化の詳細の調査に思いの外時間がかかり、屈折率傾斜構造(GI構造;コアの中心に近づくほど屈折率が高くなるような構造)の崩壊をブリルアン相関領域リフレクトメトリという手法で測定する実験がまだ開始できていない。同様に、POFへの印可歪がブリルアン散乱の温度依存性に与える影響の調査も完了はしていない。しかし、後者は平成28年度に行う予定だった「ブリルアン散乱光から温度と歪情報を分離する手法を構築する」という研究項目と同時に遂行できそうであることから、そちらの研究項目に組み込んだ。そして、その研究項目については有効そうな手法(案)を形づくることができたため、現在その有効性の検証とともに実験を進めている。 このように、スケジュール通りに終わったこともあれば、スケジュールに前後が生じて後回しになったり、別の研究項目に含まれたりしたものもあるため、完全に予定通りとは言えない。しかし、先述の統合と平成28年度の計画の一部が進んでいることから、単に遅れているとも言いにくい。これらを総合的に見て、スケジュール全体的にはどちらかというと順調ではないかと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
下記のように研究を進める。 まず、現在遂行中のブリルアン散乱特性の温度依存性に対する歪依存性の解明と、ブリルアン散乱光から温度情報と歪情報を分離する手法(案)の有効性検証を進める。温度と歪情報の分離は、文献を調査した結果、ブリルアン散乱光のパワーをBFSと併用すれば実現できる見込みがあったため、そのように行おうと考えている。その際、温度と歪をBFS等から逆算するために、歪と温度が同時に変化する場合のブリルアン散乱信号の挙動を解明する必要がある。したがって、これも先の分離手法の有効性評価と同時に進める。なお、後者で用いる実験系は前者の測定に必要な測定系を含むことから、上記2つの同時遂行は問題なく行えると考えている。 次に、GI構造の崩壊をブリルアン相関領域リフレクトメトリという手法で確認できるか実験的に評価する。基本的にはブリルアン散乱信号を観測することで崩壊位置の特定を行おうと考えている。また、崩壊を確認できるようであれば、過熱されたという情報がPOFに書き込まれるのにどれだけの時間を要するかなども調査する。 その後、POFに発生する熱変形の定量評価、POFの熱膨張・ 熱収縮がブリルアン散乱信号に与える影響の解明を行う。この件については、パルス光を用いて測定する方法がガラス光ファイバにおいて報告されていることから、それを利用することを計画している。もしPOFにおいて適用が難しい場合は、画像解析に基づいて測定することを試みる。 これらの完了後、本手法での温度分布測定を実環境で行い、構造物中の温度分布を特殊POF中のブリルアン散乱で測定する場合の課題(例;精度、応答時間、熱履歴など)の詳細な把握や、センサとして使用した特殊POFの寿命の評価などを進める。
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