研究実績の概要 |
今年度は, 水晶振動子(QCM)法を洗浄性評価に導入し, まず, 油脂洗浄過程に関する基本的情報を得ることを中心に研究を進めた. 油脂汚れのモデルであるステアリン酸の付着状態を, Langmuir-Blodgett(LB)法を用いて制御し, 汚れの付着状態の洗浄性への影響を調べた. 固体凝縮膜, または液体凝縮膜の状態で付着させたところ, アルカリ水溶液中でのケン化除去はいずれの付着状態においても有効であることわかった. また, 界面活性剤水溶液中では, 固体凝縮膜の状態では汚れの脱離が困難であったことから, 汚れ/基質界面への溶液の浸透が主な除去メカニズムとなることを明らかにした. また, 得られたQCMの周波数―時間曲線から洗浄初期速度kを求めると, kが30分後の平衡洗浄率に大きく寄与していることがわかり, QCM法を用いて油脂汚れ洗浄の動的解析が可能であることが示された. 次に, 界面活性剤の持つぬれ性およびミセル形成能が油脂の洗浄に及ぼす影響について調べた. 界面活性剤の洗浄液への添加効果について, 界面活性剤の持つぬれ性, およびミセル形成能からステアリン酸の洗浄メカニズムについて検討した. 顕微鏡画像処理法で得られた汚れの付着面積と比較することで, 汚れ除去のメカニズムが明らかになった. また, 水系洗浄の前処理としての大気圧プラズマ(APP)照射効果について基礎的な知見が得られ, 水系洗浄の前処理として大気圧プラズマ利用の可能性を示した. さらに, 高分子フィルムのほかに, ガラス, 金属, 炭素など種々の材料表面からの汚れの除去にAPP処理が応用できることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、よく規定されたモデル洗浄系を構築し, 洗浄性の評価手法として水晶振動子(QCM)法を用い, 水系洗浄現象の実験的解析を試みた. 得られた結果から, 油脂汚れの除去機構に関して, アルカリ水溶液中でのケン化, 界面活性剤水溶液中での汚れ/基質界面への溶液の浸透などを明らかにした. さらに, QCM法を利用して, 高分子, ガラス, 金属, 炭素など種々の材料表面からの汚れの除去過程が追跡できる可能性を示した. また, 水系洗浄の前処理としての大気圧プラズマ照射を提案している. 以上, 洗浄性の定量的評価法としてQCM法を開発し, 得られた結果を界面科学的立場から議論することで洗浄機構を明らかにしたことから, おおむね順調に進展していると評価する.
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今後の研究の推進方策 |
今後は, 種々の界面活性剤水溶液中で洗浄実験を行い, 周波数と共振抵抗のリアルタイム追跡を行う. 得られた周波数や共振抵抗から, 振幅や位相について解析し, 洗浄中の汚れの粘弾性や膜厚, 分子配向性などの基本情報を得る. また, 27年度の研究で作製したモデル洗浄系を用いて, 界面活性剤による汚れの脱離挙動の動的解析を行う. 界面活性剤には, 衣料用洗剤に使用されている従来型のアニオン界面活性剤やノニオン界面活性剤に加え, 新規性のアミドアミンオキシド型界面活性剤やバイオサーファクタントを用いる. また, 界面活性剤濃度や硬度成分を変化させ, 汚れ脱離への影響を調べる. 得られた結果を, 基質や脂肪酸膜に対する界面活性剤水溶液の動的接触角やミセル形成能の観点から, 洗浄効果への寄与について議論する.
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