研究課題
本研究課題は、下垂体幹・前駆細胞が、時空間的にその局在と発現遺伝子を変化させている知見より、発生過程で幹細胞の性質が変化していると仮説をたて、幹細胞の起源を明らかにすることとその運命を追跡することを目的にした。下垂体幹・前駆細胞で特徴的に発現しているProp1、Prrx1、Prrx2、S100bに注目し、Cre/LoxPシステムを用いた細胞系譜追跡実験を試みた。その結果、Prrx1-CreERT2/CAG-CAT-Venusラット、S100b-CreERT2/CAG-CAT-Venusラットの作製に成功している。しかし、リコンビネーションを誘導するタモキシフェンを投与してもVenusの発現は得られなかった。ラットでの解析報告が少ないことや、ラットではタモキシフェンを4-OHタモキシフェンへ代謝する効率が悪い報告があることから、本動物を用いた解析が難しい可能性がある。そこで、私は新たに神経堤細胞に着目した。神経堤細胞は、神経管形成時に出現した後に大きく移動し、様々な組織に侵入、分化することが知られている。さらに、興味深いことに、侵入した一部の神経堤細胞は成熟後にも未分化性を維持し、成熟後の組織幹細胞として機能していることが知られている。下垂体では、神経堤細胞が存在することが知られているが、その詳細な解析は行われていない。これらのことから、下垂体に神経堤細胞が侵入しており、幹細胞として機能していると新たに仮説を立てた。実験には、神経堤細胞とその由来細胞を特異的に追跡が可能なP0-Cre/CAG-CAT-EGFPマウスを用いた。その結果、下垂体に神経堤細胞が侵入する時期と侵入後に下垂体幹細胞へ分化すること、全ての下垂体前葉ホルモン産生細胞へ分化していることを明らかにし、論文報告した。
3: やや遅れている
当初計画した、CreERT2ラットを用いた解析が順調に進んでおらず、新たに見出したP0-Cre/CAG-CAT-EGFPマウスを用いた神経堤細胞の解析を、海外の競合している研究者より早く論文発表することが求められる。Prrx1-CreERT2/CAG-CAT-Venusラット、S100b-CreERT2/CAG-CAT-Venusラットが、本当にVenusを発現しないのか、in vitroの解析により明らかにする。そのため、Prrx1がFibroblastで高発現していることに注目し、ラット尻尾よりFibroblastを抽出し、そのFibroblastに4-OHタモキシフェンを添加しVenusの発現を解析する。新たに見出した神経堤細胞と下垂体幹細胞との関連性を調べる。成熟下垂体で、神経堤由来SOX2陽性細胞が存在していることから、未分化性を維持している神経堤由来細胞が存在していることを明らかにしている。この神経堤由来SOX2陽性細胞が下垂体ホルモン産生細胞の供給を行なっているのか解析を行う。下垂体ホルモン標的器官を除去すると、下垂体細胞の構成が変化することが知られている。そこで、副腎除去を行った際の神経堤由来ACTH産生細胞の割合を測定したところ、神経堤由来ACTH産生細胞が有意に増加していたことから、神経堤由来細胞が副腎除去後にACTH産生細胞の供給に関与していることが示唆された。
副腎除去後の神経堤由来SOX2陽性細胞の割合と、その分裂能を解析することで、神経堤由来SOX2陽性細胞が活性化されているか解析を行う。また、そのデータを補うため、下垂体分散細胞から作製されるPituisphereを用いたSphere Forming AssayとDifferentiation Assayを行う。Sphereの形成効率と分化効率を下垂体由来SOX2陽性細胞と神経堤由来SOX2陽性細胞で比較を行うことで、神経堤由来SOX2陽性細胞は、より分化しやすい状態であることを明らかとする。Sphere Forming AssayとDifferentiation Assayは、ノーマルマウスを用いて実験手法を取得済みであり、今後、P0-Cre/CAG-CAT-EGFPマウスを用いた解析を行う予定である。これらを明らかにすることで、神経堤由来SOX2陽性細胞は成熟後の下垂体幹細胞として機能していることを示唆することが可能となる。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
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