研究課題/領域番号 |
15J11569
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
永井 直 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | EndMT / 腫瘍微小環境 / 血管内皮細胞 / ERG / FLI1 / エピゲノム |
研究実績の概要 |
がん細胞を取り巻く宿主細胞ががん悪性化のキーファクターのひとつとなることが知られてきている。本研究では、腫瘍内血管内皮細胞が間葉系細胞に分化転換(内皮間葉転換;EndMT)することでがん悪性化を促進する可能性が報告されていることに基づき、EndMTの発生機序および腫瘍内EndMTのがん病態への寄与の解析、さらに発展的には腫瘍内EndMTの阻害を介した新規がん治療戦略の開発を行うことを目的とする。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)において血管内皮細胞を規定すると考えられる複数の転写因子のノックダウン解析を行った結果、ERGおよびFLI1のダブルノックダウンによりEndMT様の変化が誘導されることを見出した。このメカニズムを明らかにするため、ERG・FLI1の発現低下に伴う遺伝子発現プロファイルおよびヒストン修飾プロファイルの変化をそれぞれ遺伝子発現マイクロアレイとChIP-seqにより、ERGおよびFLI1のゲノム結合部位をChIP-seqにより解析した。この結果両転写因子が血管内皮関連遺伝子に対する転写活性化因子であることがゲノムワイドに示され、ERG・FLI1の発現低下を介したEndMTの発生機序の一端(内皮細胞の喪失)を説明できた。さらに、ERGおよびFLI1の発現低下がマウスB16F10メラノーマの腫瘍内血管内皮細胞においても見られることを組織免疫染色により確認しており、ERG・FLI1の発現低下を介したEndMTが実際に腫瘍内においても起きていることが示唆された。加えて、ERGおよびFLI1をダブルノックダウンしたHUVECが非常に強くB16F10細胞を誘引することを見出しており、EndMTを起こした血管内皮細胞が血管近傍にがん細胞を誘引することによってがん転移を促進する可能性を示すと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ERGおよびFLI1のダブルノックダウンによってEndMTが誘導できることを見出したことにより、第一の目的であるEndMT発生機序解明の大枠が達成された。加えて、さらに詳細な機序の解析に必要な全てのゲノムワイドデータの取得が完了していることから、EndMT発生機序解明に向けた作業が順調に進行していると考える。実際にEndMTという現象の一端である「内皮形質の喪失」を説明できるデータも得た。 第二の目的である腫瘍内EndMTのがん病態への寄与の解析について、ERGおよびFLI1がin vivoの腫瘍微小環境において発現低下していることが明らかとなり、in vitroで解析しているものと同様のEndMTが腫瘍内で実際に起きている可能性を示すことができた。今後の個体レベルでの解析の基盤となる示唆的なデータを得ることにも成功しており、初年度として順調な滑り出しであると考える。
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今後の研究の推進方策 |
ERGおよびFLI1のダブルノックダウンによりEndMTが発生する機序をさらに詳細に説明するため引き続き得られたゲノムワイドデータの統合的解析を行い、責任因子の絞り込みと分子細胞生物学的な証明を目指す。腫瘍内においてERGおよびFLI1が発現低下しているというエビデンスをさらに蓄積するとともに、腫瘍内でERGおよびFLI1の発現が低下する原因についても調査する。また、腫瘍内血管内皮細胞におけるERGおよびFLI1の発現低下ががん転移に寄与するかについて解析するために必要な遺伝子改変マウスの作製を開始しており、引き続きこのマウスモデルの完成ならびに腫瘍生物学的な解析データの取得を目指す。
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