研究課題
がん細胞を取り巻く宿主間質細胞が腫瘍の進展を促進するキーファクターになることが知られてきている。本研究は、腫瘍内血管内皮細胞が間葉系細胞に分化転換(内皮間葉転換;EndMT)することで腫瘍の進展を促進する可能性が報告されていることに基づき、①EndMTのメカニズムを解明すること、②腫瘍内EndMTのがん病態への寄与の実際を解析すること、③腫瘍内EndMTの阻害を戦略とする新規がん治療を開発すること、の3点を大きな目的としている。以前より転写因子であるERGおよびFLI1の発現低下がEndMTを誘導することを見出していたが、さらにその下流機序として、両転写因子が転写を促進するマイクロRNA-126(miR-126)の発現低下がEndMTの誘導に重要であることを見出した。また、腫瘍内の血管内皮細胞においてERGおよびFLI1の発現が低下する原因として、腫瘍内にエンリッチされている液性因子があることを明らかにした。特にTNFα、IL-1β、IFN-γといった炎症性サイトカインの寄与が大きいものと考えている。さらに、腫瘍内のEndMTが腫瘍の進展に与える影響を解析するため、血管内皮細胞特異的なERGおよびFLI1のノックインマウスの樹立を目指している。ES細胞からのキメラマウスの作製を経てERGあるいはFLI1それぞれのfloxマウスの作出に成功しており、現在は血管内皮細胞特異的にCreリコンビナーゼを発現するCdh5-Creマウスとの掛け合わせを順調に進めている。
2: おおむね順調に進展している
ERGおよびFLI1のダブルノックダウンによってEndMTが誘導されるメカニズムのさらに詳細な下流機序として、miR-126の関与を見出したことにより、第一の目的であるEndMT機序の解明が達成されつつある。第二の目的である腫瘍内EndMTの寄与の解析ついては、腫瘍内でEndMTが起きる(ERGおよびFLI1の発現が低下する)原因について見解を得ることができた。また、最も重要な解析である、マウス個体を用いたがん移植実験についても、必要なマウスモデルの樹立が順調に進行している。最終年度となる29年度中の論文投稿が現実的な視野に入っており、順調な進捗状況と考える。
ERGおよびFLI1の発現低下によってEndMTが誘導される機序の責任因子としてmiR-126を見出したが、さらに下流の機序について既報の文献を参考にしながら検討を進めており、EndMT誘導機序の全容の解明を目指す。また、現在進めているマウスモデルの樹立を引き続き進め、腫瘍内EndMTが腫瘍の進展に与える影響について29年度前半中でのデータ取得を目指す。これら2点が達成され次第論文を投稿できる状態になるため、これを見据えて論文のプロット作成を間もなく開始する。同時に、これまでB16F10メラノーマ細胞株のみを用いて得られているデータについて新たに2つのがん細胞株を検討対象に加える、取得済みのChIP-seqデータの再試を行うなど、論文投稿を意識したデータの拡充やブラッシュアップを開始する。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Cancer Science
巻: 107 ページ: 1206-1214
10.1111/cas.13005
http://irda-vascular.kuma-u.jp/