研究課題/領域番号 |
15J11590
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
清水 美紀 お茶の水女子大学, 人間文化創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 子育て / 幼児教育 / 預かり保育 / 公共性 |
研究実績の概要 |
以下、【理論研究】、【制度・政策に関する言説研究】、【社会調査】の進捗を報告する。 第一に理論研究では、N.フレイザーによる「ニーズ解釈の政治」議論を本研究で扱うにあたり、ニーズ、解釈、政治それぞれの概念について検討した。本研究が対象とする保育、幼児教育の分野においても、しばしばニーズという語は使われているものの、これを相対化しようとする議論は十分ではなかった。そこで、Fraser(1989)の視座に依拠し、ニーズが語られることに伴う、政治的なプロセスを論じていくことの意義に言及した。 第二には、1990年代以降の中央教育審議会における答申および審議経過を素材とし、預かり保育の位置づけをめぐる言説の通時的な変化を追った。当初、預かり保育を支える論理は、「女性の社会進出への対応」であったが、2000年ごろから「少子化への対応」という位置づけが登場した。さらにその後、中教審は預かり保育を「家庭の教育力の補完」と意味づけていた。本研究ではこの分析から、こうした言説の変化の背後には、親ではなく「子どものニーズ」という解釈を通して、家庭における子育て責任を暗黙的に強調するというポリティクスが含まれていることを明らかにした。 第三には、実践レヴェルでの公共性が構築されていく過程を考察するために、預かり保育をめぐる保育者調査の再分析と、親調査の設計をすすめた。預かり保育をめぐる保育者の語りには、子育てを「公共的に対応すべきものと解釈する言説」、「家族によって充足されるべきものと解釈する言説」のほかに、両言説間を不断に往来する言説が登場していた。さらに、これら保育者調査での知見を参照しながら、親調査の設計をすすめた。子育て期の親を対象とした質問紙、インタビュー調査を、協力者と相談の上、順次予定である。なお、調査設計に際してはプリテストを実施し、所属大学の倫理審査委員会による承認を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね当初の研究計画に沿いながら、理論研究、言説分析、そして社会調査による現状分析を進めることができた。また、それぞれの知見は、それを整理するにとどまらず、実証的な知見と理論研究の往復をはかり、有機的に結びつけながら分析を深めることできた。さらにこれらの成果を、国内学会での報告や学会誌への論文としてまとめることができた点も、今年度の大きな成果と言えるだろう。以上から、研究は順調に進展しているとおもわれる。
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今後の研究の推進方策 |
当面の課題は、子育て期の親を対象とした質問紙調査、インタビュー調査を、協力者と相談の上、順次すすめていくことである。そこで得られた結果は、着手済みの保育者調査での知見と照らし合わせながら分析をすすめる。保育者と親間に公共性が構築されていく過程、またそのプロセスにおける批判や応答関係について、丁寧に検証していくことが課題となる。 併せて、27年度内に着手した理論研究や、保育者調査の再分析による知見は、投稿論文として執筆することを予定している。
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