近年、雷や雷雲から10 MeV近いガンマ線が放射される現象「雷雲ガンマ線」が注目されている。2006年12月に観測を開始したGROWTH(Gamma-Ray Observation of Winter THunderclouds)実験は、雷雲ガンマ線の正体を明らかにするため、これまで約10年にわたり新潟県柏崎刈羽原子力発電所内で観測を続けてきた。
雷雲ガンマ線の起源は、雷雲電場により相対論的速度まで加速された電子が生じた制動放射であることが確実視されている。しかしながら、この「雷雲加速器」が正確には空間的にどのような規模の現象で、雷雲のどの内部構造がガンマ線を生じており、その発生条件を決めている物理量は何か、といった具体的な情報はほとんど得られていない。そこで、本研究ではこれらの不足情報を得ることを目標とし、新しい観測サイトや電場計の充実、新しい解析手法の応用というアプローチを採った。
前年度の解析を進める中で、色々な種類のデータを同時に取り扱うことで、想像以上に多量の情報が取り出せることが判明した。そこで本年度は主に、多地点で同時観測されたガンマ線データの同時解析手法、気象レーダー画像による風速推定、雷雲の位置・降水量分布の推定手法を確立した。その結果、ガンマ線の継続時間は放射の広がりと風速によって決まっており、雷雲の移動によって放射の時間スケールで決まることを強く支持する結果が得られた。放射の広がりは東西にも南北にも典型的に約1 kmで、雷雲の典型的サイズである数kmよりも小さく、放射源の真下でスペクトルが最も硬くなる事実が判明した。また、ガンマ線の源が雷雲内のポケット正電荷と対応している可能性も示唆された。以上の結果に基づき「高度数百メートル程度に浮かぶポケット正電荷の上部から下向きに生じる、ほぼ軸対称な放射」という雷雲ガンマ線の描像を確立することができた。
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