研究課題
本年度での研究では、MDA-MB-231細胞移植モデルマウスを用いて、インビボにおけるαHB-EGF LNPの組織集積性および治療効果について検討を行った。はじめに、担がんマウスにトリチウム標識LNPを尾静脈内投与し24時間後の生体内分布を評価した結果、αHB-EGF LNPはPEG修飾LNPと同等の血中滞留性およびがんへの集積性を示すことが明らかになった。またpolo-like kinase 1(PLK1)に対するsiRNA(siPLK1)を内封したαHB-EGF LNPをがんモデルマウスに投与し、遺伝子抑制効果を評価したところ、移植がんにおけるPLK1タンパク質の発現抑制ならびにがん増殖抑制効果が認められ、がんへのsiRNA送達におけるαHB-EGF LNPの有効性が示唆された。一方、siRNAの簡便なPCLへの内封およびがん治療への応用を目的とし、前年度に続く検討を行った。PCLとsiRNAを混合し室温で20分間静置することで作製したリポプレックスを液体窒素で凍結後、攪拌しながら融解することで凍結融解リポプレックス(FT-Lpx)を得た。通常多重膜リポソームを凍結融解すると1枚膜のリポソームが形成されるが、リポプレックスを凍結融解すると反対に脂質膜の数が増えることが電子顕微鏡観察から明らかになった。siRNAの複合体内局在を明らかにするため、金ナノ粒子標識siRNA(Au-siRNA)を用いてリポプレックスを調製し、電子顕微鏡観察を行ったところ、多くのAu-siRNAがFT-Lpxを構成する多重膜リポソームの膜間に存在する様子を認めた。続いて蛍光標識siRNA搭載FT-Lpxを調製し、がんモデルマウスへ投与後のインビボイメージングを行った結果、投与48時間後におけるがんへのsiRNA集積が認められ、FT-Lpxががんへの新規siRNA送達戦略となることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
以前より検討してきたsiRNA内封脂質ナノ粒子のがん治療への応用展開として、がんモデルマウスにおけるHB-EGF抗体修飾脂質ナノ粒子のがん組織への集積性およびがんにおける標的遺伝子抑制効果を明らかにした。また、siRNAのリポソームへの内封法として提唱した凍結融解技術について、siRNAのリポプレックス内局在および生体内挙動の解析を行い、全身投与型製剤としての応用可能性を示した。以上の内容について学会発表や論文による情報発信を予定しており、これらを踏まえ概ね順調に進行していると考える。
本年度は、核酸搭載脂質ナノ粒子の腫瘍への集積性評価、および細胞内取り込み後のRNA干渉効果発現に与える脂質ナノ粒子の物性特性の解明の二点を目的として検討を進める。腫瘍標的化を可能とするため、これまでに開発を進めてきたHB-EGF抗体修飾脂質ナノ粒子を用いる。HB-EGF抗体修飾脂質ナノ粒子の体内挙動解析を行うため、Alexa750で蛍光標識を施したsiRNAを搭載し、担がんマウスに尾静脈内投与したのちの体内動態をインビボイメージングシステムにて観察する。マウスに移植するがんには、トリプルネガティブ乳がん細胞であるMDA-MB-231細胞を選択する。さらに、組織レベルでのsiRNAの動態をex vivoで評価するとともに、腫瘍切片の蛍光顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡により観察を行う。一方で、がん細胞へ取り込まれたのちの効率の良い核酸放出に関わる因子としてpH変動に着目し、pH応答性を変化させた脂質を合成し、RNA干渉効果の発現に与える影響を評価する。構造変化を最小限に抑えたpKaの異なる脂質を得るため、カチオン性部位の末端にフルオロメチル基を導入する。合成したそれぞれのカチオン脂質のpKaは、滴定曲線を描き接線法により算出する。pKaとRNA干渉誘導の関係性について明らかにするため、EGFP発現細胞を用いた遺伝子抑制効果検討を行う。メディウム中あるいは循環血液中におけるsiRNAの遊離を防ぐため、各カチオン性脂質を含むリポソームにsiRNAを内封したキャリアを用いて種々の検討を実施する。siRNAの内封は、リポソームとsiRNAの複合体を凍結融解することで行い、細胞への親和性を向上させるため膜透過性ペプチドを一定量修飾する。各種のフルオロメチル基導入脂質の遺伝子ノックダウン効率を比較し、脂質のpKaが与えるRNA干渉効果への影響を評価する。
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