本年度は(1)核酸搭載脂質ナノ粒子の腫瘍への集積性評価、及び(2)カチオン性脂質のpKaがRNA干渉(RNAi)効果発現に与える影響評価に関する検討を行った。(1)腫瘍標的化ナノ粒子として、前年度までに開発したHB-EGF抗体修飾脂質ナノ粒子(αHB-EGF LNP)を用いた。蛍光標識siRNAをαHB-EGF LNPに搭載し、MDA-MB-231ヒトトリプルネガティブ乳がん細胞移植マウスに尾静脈内投与後の体内動態をin vivo及びex vivoで観察した結果、αHB-EGF LNPは対照LNPと比較しがんへの高いsiRNA送達能を示した。また、ポロ様キナーゼ1(PLK1)に対するsiRNAを封入したαHB-EGF LNPは、担がんマウスのがん増殖を有意に抑制し、当該ナノ粒子のがん治療応用可能性が示された。(2)本研究ではカチオン性脂質の構造変化を最小限に抑えたpKa制御とRNAi効果検討のため、原子径の小さなフッ素に着目した。エチレンジアミン(EDA)またはジエチレントリアミン(DETA)の1級アミンにフルオロメチル基を導入した各カチオン性脂質を合成した。各脂質を含むリポソームにsiRNAを搭載しRNAi効果を評価したところ、CH3基導入EDA脂質(pKa=8.2)含有リポソーム(EDA-CH3-Lip)、CF3基導入DETA脂質(pKa=7.1、<3.0)含有リポソーム(DETA-CF3-Lip)が高いRNAi効率を示した。siRNAの細胞内挙動を共焦点顕微鏡で観察した結果、EDA-CH3-Lip及びDETA-CF3-Lip導入群で、他群と比較し素早いsiRNAの細胞質拡散が認められた。高いRNAi効果を引き起こすリポソームはsiRNAの細胞質リリースの点で優位である可能性が示され、カチオン性ベクターのアミン残基数に応じた適切なpKa制御の重要性が示唆された。
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