研究課題/領域番号 |
15J11705
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
譚 ゴオン 東京工業大学, 総合理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | ナノインプリント / ナノパターニング / ポリマー基板 / 酸化物薄膜 / 固相結晶成長 |
研究実績の概要 |
本研究の目的である一軸圧縮アニール下での薄膜固相結晶化に関する研究では、はじめに、室温で市販のソーダライムガラス基板上に非晶質の透明導電膜ITOを堆積させた。その後、250℃で1時間、真空中で異なる一軸圧縮応力(無加圧(0)、10、30、50 MPa)を印加し固相結晶化させた。得られた薄膜はすべて(222)配向が支配的だった。30 MPaまでは似たような結晶化挙動を示したが、50 MPaでは急激にITOの結晶化が抑制されていることがわかった。このことから、熱処理中の一軸圧縮応力の印加は固相結晶化する際の原子拡散に影響を与え、結晶成長が抑制されることが示唆された。この非晶質酸化物薄膜の一軸圧縮下での固相結晶成長に関する研究に加え、ナノインプリント法を用いたポリマー表面への原子スケールでのステップ形状の大面積転写およびその形状安定性についての研究を行った。アクリル樹脂表面に作製した原子ステップ形状の熱的安定性については、表面形状はガラス転移温度を越えた温度でも安定していることを明らかになった。この結果は高分子分野で大変興味深く、ポリマー関連の雑誌(Polymer journal)に論文掲載することができた。また、耐熱性の優れた透明ポリイミド上に対しても原子ステップ形状を転写することに成功した。これにより、フレキシブルな太陽電池やディスプレイの超平坦なポリマー基板として応用できることがわかった。そこで、この原子スケールの形状をもつ超平坦なポリイミドを用いて酸化物薄膜堆積を行った結果、基板の形状を反映した原子レベルで超平坦な酸化物薄膜の作製を達成した。得られた結果を日本のみならずアメリカの学会57th Electronic Materials Conferenceで発表し、英語で活発な討論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である酸化物薄膜の熱アニールによる固相結晶成長中に一軸圧縮応力を印加するという調査は、これまでにほとんど報告例がない。今回、ポリマーやガラスの微細加工に使われる熱ナノインプリント装置を用いることで、ガラス基板上に堆積したITO薄膜に対して加熱しながら一軸圧縮応力の印加を行った。得られた結果から、熱処理中の一軸圧縮応力は薄膜が固相結晶化する際の原子拡散に影響を与え、結晶成長が抑制されたことが示唆され、新たな知見を得ることができた。 また、熱ナノインプリント法によりこれまでの解像度を上回る原子スケールの転写に挑戦してきた。単結晶サファイアの自己組織化現象により原子スケールのステップパターンを作製し、これを鋳型(モールド)としてナノインプリントすることで、アクリル樹脂(PMMA)や耐熱性の優れている透明ポリイミド樹脂にパターンを転写することに成功した。そして、作製した原子ステップパターンの安定性についても調査を行った。その結果、アクリル樹脂表面に作製した原子ステップ形状は、ガラス転移温度を越えた温度でも安定していることが明らかになった。この結果は高分子分野では大変興味深く、ポリマー関連の雑誌(Polymer journal)に論文掲載することができた。また、原子ステップ形状を有するポリマー材料の応用に向けて、薄膜堆積用の基板として平坦で均質な薄膜が得られるのかどうか調査を行った。その結果、基板の形状を反映した原子レベルで超平坦な酸化物薄膜の作製を達成することができた。これらのことから、これまでになかった新たな知見を得ることができ、また応用に結びつけるような研究をすることもできたため、順調に研究が進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、自己組織化を用いたボトムアップ法とナノインプリントを用いたトップダウン法とを組み合わせることで、これまでに作製が困難だった微細ナノ構造を構築することである。ナノインプリント法は大面積にナノ構造を創ることができ、これまでの私の研究で面直方向において原子スケールの転写が可能であることを実証してきた。しかし、面内で数ナノメートルの周期構造や高アスペクト比の構造を創ることは難しく、いまだに課題が多くある。そこで、近年はブロックコポリマーなどの自己組織化を用いたボトムアップ法とナノインプリントを用いたトップダウン法との組み合わせが注目されている。ボトムアップ法は分子間力などを利用して自然に構造を形成する技術で、ブロックコポリマーの自己組織化はその典型例である。しかし、自己組織化のみで得られるパターンは長距離秩序が劣るという問題があった。これまでに、ナノインプリントなどのトップダウン法で基板にガイドパターンを作製することで、ブロックコポリマーの長距離秩序の制御を行う研究が盛んに行われている。そこで、本研究で作製に成功した原子ステップ形状をもつ耐熱性ポリイミド上でブロックコポリマーを自己組織化させることで、長距離秩序をもちながら、表面が超平坦な自己組織化パターンの創製が期待できる。また、酸化物薄膜の自己組織化の研究も材料の組み合わせと機能性の観点から近年非常に注目を集めている。これに対しても、ナノインプリント法を用いて単結晶基板にガイドパターンを作成することで、自己組織化の際にナノ周期構造の高密度化、形状、位置を制御することで機能を向上させ、デバイスの効率化が期待できる。最終的な目標としては、ナノインプリント法を駆使して機能性酸化物ナノ構造を作製し、ナノスケール化することで起きる物性の開拓およびデバイスへの応用を目指している。
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