眼内に生じる病的血管新生は、主たる失明原因疾患である糖尿病網膜症と加齢黄斑変性症の病態に深く関与している。本研究では、安全かつ有効な病的眼内新生抑制法を開発するために、申請者がこれまでに確立した新生仔期マウスにおいて任意のタイミングで VEGF 受容体阻害薬を投与することにより作製する網膜血管形成プログラムかく乱モデルを用いて、1. 眼内血管新生の方向性調節機序と 2. 網膜血管のパターン形成異常と網膜疾患リスクの関連性を明らかにすることを目的として、本年度は次のような成果を得た。 眼内血管新生の方向性調節機序: 昨年度までに明らかにした網膜血管形成プログラムかく乱モデルにおいて過剰量の VEGF が血管新生を抑制する機序を明らかにするために、本モデルの網膜における VEGF と血管内皮細胞の増殖と遊走との関連について検討した。 (1) 過剰量の VEGF が発現している血管未形成領域と接し血管の新生が抑制されている領域では正常と同じ程度の増殖性の血管内皮細胞が認められたが、遊走している血管内皮細胞の数は減少していた。 (2) 血管新生を抑制しない用量の VEGF 受容体阻害薬の投与は、過剰量の VEGF に暴露されて血管の新生が抑制されている領域における血管の内皮細胞の増殖には影響を及ぼさずに新生を促進するようになった。また遊走している血管内皮細胞の数は増加した。 これらの結果は、過剰量の VEGF により血管内皮細胞の VEGF 受容体経路が過度に活性化されると血管内皮細胞の遊走は抑制されるようになり血管新生が抑制されることを示唆している。
|