研究課題/領域番号 |
15J11799
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
SHARANKOVA RALITSA 東京工業大学, 大学院理工学研究科(理学系), 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
キーワード | ニュートリノ振動 / ニュートリノ混合角 / 原子炉ニュートリノ |
研究実績の概要 |
Double Chooz実験は国際原子炉ニュートリノ実験であり、混合角シータ13の精密測定を行っている。北フランスにあるショー原子力発電所の原子炉から生成される反電子ニュートリノを2器の大型液体シンチレータ検出器を用いて測定する。Double Chooz実験は2016年まで後置検出器で取得したデータのみを用いて解析を進めていた。2016年からは、建設が2014年末に完了した前置検出器のデータも含め解析を行っている。2016年3月の国際学会にて両検出器のデータを用いた初の解析の発表を行い、更に同年9月に改善した解析結果を発表している。現在は国際科学誌への論文投稿に向けて系統誤差の再見積や様々な解析の再確認に取り込んでいる。 原子炉ニュートリノ実験ではニュートリノは逆ベータ崩壊反応を通じて、先発信号と後発信号の遅延コインシデンスとして測定される。後置信号は中性子の原子核への捕獲の際に放出されるガンマ線からなる。原子炉ニュートリノ実験ではガドリニウム原子核捕獲事象が一般的である。一方、Double Choozでは統計を増やすため水素原子核捕獲事象も利用する。その場合、環境ガンマ線によるバックグラウンド(偶発的バックグラウンドと呼ばれる)が多く、シータ13への測定精度に直接影響を与える。 本研究の主な目的は偶発的バックグラウンド削減のための解析ツールの開発及び最適化である。開発したアルゴリズムによるバックグラウンド削減は以前の解析に比べ約10倍良くなっている。 また、本研究者はエネルギー再構成や検出器応答のキャリブレーション(校正)の解析にも大きく関わっており、放射線源を用いたキャリブレーションのエキスパートでもある。キャリブレーションデータの解析を通じてエネルギー再構成における系統誤差の減少にも貢献している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究者は以前Double Chooz後置検出器のみを用いた解析のための偶発的バックグラウンド削減用解析ツールを開発し最適化した。27及び28年度は両検出器を用いたデータ解析のために以前開発したアルゴリズムの改良を行い、この新たなツールの最適化を行った。開発したアルゴリズムはニュートリノ事象の特徴(後発事象のエネルギー及び先発信号と後発信号の間の距離と時間差)をニューラルネットワークのインプットとして利用し、事象ごとに信号らしさまたはバックグランドらしさを評価する。ニューラルネットワークを用いた解析は、以前Double Choozで使われていた単純な選別条件より約10倍多くのバックグラウンドの削減に成功している。 また、本研究者は2016年4月に行われた放射線源を用いたキャリブレーション実施にエキスパートとして参加し、エネルギー再構成に欠かせないキャリブレーションデータの取得及び解析を行った。 さらに2016年の夏に行われた国際学会及び2017年3月に行われた日本物理学会大会にて研究成果を発表している。
|
今後の研究の推進方策 |
Double Choozでは両検出器のデータを用いた解析の科学誌への初投稿に向けて解析の最終確認を行っている。 本研究者は開発した偶発的バックグラウンド削減のための解析ツールによるニュートリノエネルギースペクトルへの影響の確認を行っている。今後はこの影響による系統誤差の見積もりや誤差の低減に向けた解析の最適化を行う予定である。 また、Double Chooz実験は2017年度でデータ収集を終える予定である。これを考慮して、両検出器における放射線源を用いたキャリブレーション実施は2017年の夏に予定されている。本研究者はエキスパートとして参加しキャリブレーションデータの取得と解析を行い、検出器応答及びエネルギー再構成による系統誤差のさらなる低減を目指す。 更にシータ13の測定結果を国内・国際学会で発表し、今年度中に解析をまとめる。
|