研究実績の概要 |
本年度は、昨年度のβ-PdBi2およびPdTe2の研究で得られた知見から、金属相におけるトポロジカル電子相の開拓を目的として、半金属ベースの物質設計の指針を立て、実験実証に適した新たな物質の探索を行った。特にスピン軌道相互作用の強いビスマス化合物に着目し、純良単結晶を用いた、強い相対論効果が誘起する特異な超伝導および常伝導(磁気輸送)特性の観測を目標とした。 層状半金属InBiについて、従来の報告より残留抵抗比が数倍高い単結晶を育成し、極低温抵抗率測定を行ったところ、超伝導は観測されなかった一方で、低温において30,000 %を超える正の巨大磁気抵抗の観測に成功した。一般的なtwo-carrier modelを用いて輸送特性解析を行い、電子と正孔の優れたキャリアバランスが一つの起源となることを明らかにした。第一原理電子状態計算から、強いスピン軌道相互作用により、特定の結晶対称点においてフェルミレベル近傍に3D-Dirac分散が現れることが分かり、巨大磁気抵抗に寄与していることが示唆された。さらに、共同研究として角度分解光電子分光測定から表面およびバルク電子構造を観察し、InBiが新たなトポロジカル半金属である可能性を示唆する結果を得た。 層状超伝導体α-PdBi2について、単結晶を用いた極低温までの抵抗率測定を行い、バルク超伝導パラメータを決定した。また、共同研究を行い、磁場侵入長測定による詳細な超伝導対称性の考察を行った。第一原理電子状態計算からはトポロジカル電子状態の存在が示唆され、新たなトポロジカル超伝導体候補物質として期待できる知見を得た。
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