研究課題/領域番号 |
15J11895
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
染谷 隆史 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | グラフェン / キャリアダイナミクス / 超高速分光 / 時間分解光電子分光法 |
研究実績の概要 |
二次元炭素材料であるグラフェンはディラックフェルミオンと呼ばれる質量ゼロの電子状態を有し、広帯域光吸収や高キャリア移動度といった優れた光・電子特性を示す。本研究では、その優れた特性を光デバイスに応用する足がかりとして、グラフェンのキャリアが光励起されてから緩和するまでに起こる一連のプロセスを、超短パルス紫外光を用いた時間分解光電子分光法により、フェムト秒(千兆分の一秒)の極めて短い時間スケールでの追跡を試みた。 我々は炭化ケイ素上にグラフェン層を高品質に作成することで、不純物や欠陥などによる散乱の影響を排除し、グラフェンにおける光励起キャリアの純粋な緩和ダイナミクスを抽出することに成功した。また、我々は理論面からのアプローチを行い、緩和の詳細な様子の定量評価を行った。その結果、光励起されたグラフェンキャリアは、まず光学フォノンとの散乱により数百フェムト秒の時間スケールで、互いが熱平衡状態になるまで急速にエネルギーをやり取りすることがわかった。このスキームに基づいた理論モデルは実験で得られた緩和ダイナミクスを非常によく再現し、グラフェンにおけるキャリア緩和の理解を深めることに成功した。 また、同時に本研究課題の肝である超短パルス光源および測定システムの改良を行った。本測定における時間分解能は超短パルス光の時間幅により決まるが、時間幅が短いほど光学素子を通過した際の群速度分散の影響を受け、時間幅が広がりやすい。我々は時間幅が広がりやすい透過型の光学素子ではなく、時間幅が広がりにくい反射型の光学素子を採用するなど、光学系の設計を見直すことで、時間分解能を従来の100fsから50fsまで向上させることに成功した。 これにより、これまで観測できなかった時間スケールの現象を捉えることが可能になったため、本研究課題である「ディラック電子系の超高速ダイナミクス」のより詳細な理解が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
時間分解光電子分光実験に関してはグラフェンを対象とした超高速キャリアダイナミクスの追跡を実験と理論の両側面から理解を深めることができ、計画以上に大きな進展があった。また、該当年度において様々な学会、シンポジウムで成果発表を行った。 時間分解共鳴磁気カー効果実験に関しては、予算やビームタイムの都合から未だ立ち上げ段階にあるが、大型放射光施設Spring-8で関連実験、予備実験を行うなど、早期立ち上げに向けて着実に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後もグラフェンの超高速キャリアダイナミクスにおいて、温度・光励起強度・ドープ量などの実験パラメータを制御した研究を進め、より詳細な緩和機構の理解を目指す。 また、本研究課題の重要なテーマの一つである「グラフェンテラヘルツレーザーの開発に向けたテラヘルツ帯反転分布の観測」を目指し、研究を展開していく。
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