研究実績の概要 |
本研究では,対称性を活用した物性開拓や,物質探索を行い,初年度では特に4つの化合物の単結晶育成の確立と特性の解明を行ってきた.まず当初の計画案で中心的に記載した,ACrX2 (A = Cu, Ag; X = S, Se)というスピンの対称性の破れに加えて,空間の対称性も破れている物質の単結晶育成法の詳細を開拓し,これらの物質電子相関の強い金属から誘電性と磁性を持ち合わせた絶縁体まで,多彩なる特性を持つことを明らかにした.特に,高温で熱電材料として実用化の目安であるZT = 1をもつと報告されているAgCrSe2が,本質的に高い熱電性能を持つことを単結晶でも再現でき,この物質が高温熱電材料として有望であることを裏付けた. 次に,この物質の派生物質であり,局所的空間対称性の乱れが導入された不定比性化合物AgxCr2+yX4 (X = S,Se)の大型単結晶育成に成功し,その特性を初めて解明した.この導入された乱れによって,この物質は代表的な熱電材料であるBi2Te3をも凌駕する極めて低い熱伝導率をもつことが明らかとなり,室温以下までは前述したAgCrSe2の約倍の熱電特性を持つことを発見した.これによって,高温においても,実用化の目安を倍をいく高温熱電材料として期待できることを明らかにし,基礎物性について論文にまとめ,投稿した. 3つ目に,ACrX2を基にした合成経路から,近年脚光を浴び始めているCrSe2や,数十年間誰も合成できなかったCrS2の単結晶を得ることにも成功した.これらについては,例のほぼない興味深い秩序や状態を持つ可能性があり,現在も引き続きその特性の解明中である. そして最後に,対称性の崩れた擬一次元鎖をもつCrPS4に着目し,異方的な物性測定を行った.これによって比較的低磁場の約1Tで,スピンが急激に向きを変えるスピンフロップという現象を起こすことを明らかにした.
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