研究課題/領域番号 |
15J12045
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
白坂 将 東京工業大学, 情報理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 非線形力学系 / ハイブリッド力学系 / 振動現象 / 同期現象 / 共変リアプノフ解析 / クープマン作用素 / 身体運動 / シナジー |
研究実績の概要 |
自然界には歩行や心拍、電力網など、安定でリズミカルな挙動が多く存在し、ニューロンや発電機といったリズム素子の同期特性について理解することは、マクロな機能発現メカニズムの解明やその設計・制御のために重要である。 電子回路のスイッチ動作、ニューロンの発火など、歩行における足の着地など、システムの状態に急激な時間変化を引き起こす現象はさまざまな分野でみられる。これらはしばしば従来の力学系による記述が困難であり、ハイブリッド力学系という枠組みで扱われる。 本研究課題においては、ハイブリッド力学系におけるリズム現象について、位相の外力に対する応答(位相感受関数)を評価する手法を開発し、その同期現象を扱うための基礎を確立してきた。この手法と、共変リアプノフ解析と呼ばれる力学系の外乱に対する応答解析手法の密接な関係を踏まえ、従来のリズム現象解析においてあまり注目されてこなかった位相を除く成分(振幅方向成分)の応答についての評価、及びその応用の試みを開始した。身体運動制御及び学習に関する中心的なテーマとされる冗長自由度問題について、これを扱う定量的な指標(シナジー指標)を共変リアプノフ解析により評価する手法を開発した。 共変リアプノフ解析は力学系の典型的なふるまいを表すアトラクタのごく近傍でのみ有効な手法であるが、近年注目されているクープマン作用素による力学系の扱いは、アトラクタへの過渡過程における応答解析手法を共変リアプノフ解析の拡張として自然に与えることができる。また、乱流や電力網といった不確かさを含む大自由度非線形系についても、実験データのみに基づく解析が可能であることから、さらなる進展が期待されている。この作用素論的手法においては、クープマン作用素の固有対の評価が重要となるが、カーネル法を用いることで、低計算コストの推定を行う手法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究開始時点では、リズミカルにふるまうハイブリッド力学系について、その位相応答評価手法および同期ダイナミクスへの応用を主な研究テーマとするつもりであった。位相に加えて振幅成分の応答を評価することにより、身体運動システム研究における中心的課題であるシナジー解析研究を遂行したことを通じて、生体システムにおける過渡過程の重要性を認識した。近年急速に発展しているクープマン作用素論的手法により、これまで力学系の典型的なふるまいを表すアトラクタのごく近傍でのみ有効であった位相や振幅の応答解析手法が、過渡過程を含む広い範囲の動的過程に適用可能になり、その応用対象が劇的に拡がることが示唆されていることから、具体的な生体・自律分散システムへの同期ダイナミクス解析手法の応用に関する研究を中断し、このような作用素論的手法の発展を研究テーマの中心に据えることとした。作用素論的手法において重要な、固有対の推定手法に関する成果が得られており、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
ハイブリッド力学系における同期理論を、これまで扱うことのできなかった過渡過程を含むより広い動的ふるまいに適用可能な形で確立することを目的として、作用素論的手法によるハイブリッド力学系の位相・振幅応答解析手法の開発を行う。この拡張された同期理論の生体・自律分散システムへの応用を行う。
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