研究課題/領域番号 |
15J12051
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研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
高瀬 ひろか 神戸薬科大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | AAアミロイドーシス / 血清アミロイドA / 高密度リポ蛋白質 |
研究実績の概要 |
AAアミロイドーシス発症の原因蛋白質である血清アミロイドA(SAA)は、生体内で高密度リポ蛋白質(HDL)の構成成分の一つとして主に脂質に結合して存在する。これまでに、SAA-HDLモデル粒子の作製に成功し、脂質存在下においてSAAの線維形成が抑制されることを明らかにしている。しかし、粒子を構成する脂質の種類がSAAの高次構造および線維形成に及ぼす影響については検討できていなかった。そこで、慢性炎症性疾患罹患者のHDLで脂質組成の割合が増加するとの報告がある酸性リン脂質のホスファチジン酸(PA)を含む粒子を作製し、その粒子の特徴を評価した。その結果、HDLの主要な構成脂質であるホスファチジルコリン(PC)のみの粒子と比べて、粒子の大きさや粒子中のSAAの構造安定性に大きな違いは認められなかった。しかし、蛋白質分解酵素で処理した試料をSDS-PAGEで評価した結果、PAを含む粒子の方がPCのみの粒子に比べて短時間でSAA全長蛋白質が消失していた。このことから、脂質組成の違いがSAAの酵素消化に影響をもたらす可能性が示された。 また、大阪大学蛋白質研究所協力の下、AAアミロイドーシス患者の臓器沈着物から検出されているSAAのC末端部分が欠損したSAA1-76残基ペプチドの合成を試みた。ペプチドの合成は通常C末端側から行うが、SAAはN末端領域の合成効率が低く、1-76残基を1残基ずつ合成すると最終段階で合成に失敗してしまうリスクが高い。そこで、今回はSAAを2つの断片(1-44および45-76残基)に分けて合成後、縮合するNative chemical ligation法を用いた。現在、3つのSAA1アイソフォームのうち、SAA1.1および1.3の合成に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目は検討に必要な研究試料の作製方法の確立を中心に研究を進めることができた。また、当初の研究計画では正常時および炎症時のHDLの脂質組成後、その組成を反映させたSAA-HDLモデル粒子を作製する予定であったが、現在行っているように慢性炎症性疾患罹患者のHDLで脂質組成の割合が増加するとの報告があるPAなどの脂質を含む脂質組成を変えたSAA-HDLモデル粒子を作製することにより、HDLモデル粒子中のSAAに及ぼす各脂質成分の影響を評価できるように計画を変更した。よって、一部当初の研究計画とは異なる部分もあるが、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
一年目に引き続き様々な脂質組成のSAA-HDLモデル粒子を作製し、粒子の特性を評価するとともに、SAA-HDLモデル粒子に線維形成促進効果のあるグリコサミノグリカン(GAG)を共存させ、構成脂質組成の違いがSAAの線維形成に与える影響を評価する。また、これまでの研究よりSAAの線維形成に促進効果をもたらすGAGの構造要因が硫酸基であることを明らかにしている。そこで、AAアミロイドーシスモデルマウスおよび健常マウスの各臓器から抽出したGAGの二糖解析を行い、硫酸基含有量を比較することでSAA線維の沈着部位と硫酸基含有量の相関を明らかにする。 また、これまで検討されていないAAアミロイドーシス患者の病変部から検出されているSAA1-76残基からなるポリペプチドの線維形成能および形成する線維の形態について、新規合成したSAA1-76残基ペプチドを用いて、SAAアイソフォーム間で比較することで、SAAアイソフォームがAAアミロイドーシス発症の直接的なリスク因子となるのかについて明らかにする。さらに、SAA全長蛋白質とSAA1-76残基ペプチドの線維形成能を比較することにより、SAA分子のC末端領域の有無が線維形成およびその後のAAアミロイドーシス発症へもたらす影響を明らかにする。
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