研究課題/領域番号 |
15J12072
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
富田 廉 東京工業大学, 総合理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 可視光 / フォトレドックス触媒 / フッ素 / トリフルオロメチル化 / 四置換アルケン |
研究実績の概要 |
本研究では、遷移金属触媒とフォトレドックス触媒の協働作用による反応性化学種形成を鍵とした有機分子変換反応の開発を目的としている。これまでに我々は、フォトレドックス触媒と呼ばれるルテニウムやイリジウムのポリピリジル錯体が、可視光照射下、梅本試薬やトニー試薬といった求電子的トリフルオロメチル化剤を一電子還元することでCF3ラジカルが発生することを見出し、これを鍵としたアルケン類のトリフルオロメチル化を伴う二官能基化反応を報告している。本年度は、フォトレドックス触媒と求電子的トリフルオロメチル化剤の反応系に銅触媒を組み合わせることで、高原子価のCu(CF3)(OTf)種が発生すれば、内部アルキンに対し求電子的に反応し、四置換トリフルオロメチルアルケン前駆体となるトリフルオロメチル基置換アルケニルトリフラートの立体選択的な合成が可能ではないかと考え、検討を行った。 研究の結果、目的とした内部アルキンからのトリフルオロメチル基置換アルケニルトリフラート合成反応は、銅触媒を必要とせず、フォトレドックス触媒単独の触媒系で効率良く進行することを見出した。本反応は、フォトレドックス触媒と求電子的トリフルオロメチル剤の反応により生じたCF3ラジカルが、直接アルキンに対し付加することで進行していると考えられる。また本反応は生成物の二重結合の立体に関して高選択的に進行することがわかった。これに関して、計算の結果、電子的に特異なトリフルオロメチル基が求核剤の付加を制御していることが示唆され、トリフルオロメチル基を含む分子の反応性に関する知見の一つとなり得ると考えている。さらに本反応の生成物であるアルケニルトリフラートは、粗生成物のままパラジウム触媒による鈴木カップリングや薗頭カップリングが可能であり、四置換トリフルオロメチルアルケンの簡便な合成法の確立に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究開始当初銅触媒とフォトレドックス触媒を組み合わせることでCu(CF3)(OTf)種を発生させ、内部アルキンと反応させることを目論んだが、検討の結果フォトレドックス触媒単独で目的とした反応が進行し、トリフルオロメチル基を持つアルケニルトリフラートが効率的に得られることを見出した。また反応は生成物の二重結合に関して立体選択的に進行すること、生成物は単離せずワンポットでカップリング反応が可能で、様々な四置換トリフルオロメチルアルケンへ誘導できることを見出した。本研究成果は学会発表及び査読論文によって公表した。遷移金属触媒とフォトレドックス触媒を組み合わせるという当初のアプローチとは異なるものだが、よりシンプルな条件で目的とした四置換トリフルオロメチルアルケンが得られる反応系の確立に成功した。またフォトレドックス触媒の反応性及びトリフルオロメチル基が反応に及ぼす影響など、今後の研究に役立つ知見が得られ、研究ははじめの目論見と多少異なるものの大きく進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
目的とした反応の一つであるアルキンからの四置換トリフルオロメチルアルケン合成反応の開発は達成したため、今年度は申請書の記載通り、パラジウムなどの遷移金属触媒とフォトレドックス触媒を組み合わせた反応の開発に取り組む予定である。遷移金属の光活性化には電子移動(酸化還元)による活性化とエネルギー移動による活性化が考えられるが、両反応形式とも考慮し検討を進め、不活性結合活性化を経由する反応や、原子移動型溝呂木-ヘック反応など、難易度の高い分子変換反応の開発を目指す。
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