研究実績の概要 |
前年度までに本研究員は、フォトレドックス触媒と呼ばれるルテニウムやイリジウムのポリピリジル錯体が、可視光照射下、梅本試薬やトニー試薬といった求電子的トリフルオロメチル化剤を一電子還元しCF3ラジカルを発生させることに着目し、アルケンやアルキンのトリフルオロメチル化を伴う二官能基化反応を報告している。この知見を発展させ、今年度は新たな基質としてアレンに着目した。アレンに対するトリフルオロメチル化反応の報告例はわずかで、特にフォトレドックス触媒を用いたアレン類のトリフルオロメチル化反応は我々の知る限り未だ報告例がない。研究の結果、フォトレドックス触媒存在下、梅本試薬と1,1-二置換芳香族アレンのジクロロメタン/酢酸混合溶液に室温で可視光を照射したところ、対応する2-CF3-アリルアセテートが効率的に生成することを見出した。本反応は高位置、立体選択的に進行し単一の異性体を生成物として与えた他、一置換、1,3-二置換、三置換芳香族アレンに対しても適用可能であった。さらに本反応の生成物は含CF3化合物合成の有用な中間体として期待でき、実際にパラジウム触媒や銅触媒によって更なる分子変換が可能であった。本研究成果は査読を経てChem.Commun.誌へ掲載された。また本研究者は平成28年10月9日から三ヶ月間、英国St. Andrews大学O'Hagan研究室へ留学した。O'Hagan研では芳香族チオアセチレン(ArSCCH)にフッ化水素を反応させ、芳香族ジフルオロエチルチオ化合物(ArSCF2CH3)を合成する反応について研究を行った。SCF2CH3基はトリフルオロメチル基やトリフルオロメチルチオ(SCF3)基に比べ合成例や性質の評価がほぼない。本研究者は本反応が種々の芳香族チオアルキンに対し適用できること、SCF2CH3基の極性がCF3基とSCF3基の間にあることなど明らかにした。
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