研究課題
アミノベンゾピラノキサンテン (ABPX) 系色素は、蛍光色素のローダミン類をC2v対称の形で二つ融合した構造であり、そのジカチオンはローダミンより長波長の赤色領域に吸収と蛍光発光を示す。一方さらに長波長の近赤外光は分子イメージングや光線力学療法などへの応用が期待されるため、ABPXのさらなる長波長化を試みた。密度汎関数法 (DFT) による検討で、ローダミン類がC2h対称の形で融合したiso-ABPXのジカチオンはABPXに比べ狭いHOMO-LUMOギャップが予測されたため、新規近赤外色素になると考え、実際に合成し物性を検証した。市販原料からジエチルアミノ基を有するiso-ABPX (1) を58%の収率で得た。1のクロロホルム溶液は無色だが、0.2%(容量%)のトリフルオロ酢酸 (TFA) を加えた際に溶液は桃色になり、553 nmに極大を持つ吸収スペクトルが観察された。さらにTFAを10%となるように加えたところ、この溶液は緑色に変化し、660 nmに極大を持つ新たな吸収帯が出現した。同時に680 nmに極大を持つ蛍光発光も観察され、発光帯は900 nmを超える近赤外領域まで到達した。色調変化は1の分子構造の変化に由来すると考え、酸の結合数が異なる分子種である、中性・モノカチオン・ジカチオンが色調に対応すると想定した。時間依存DFT計算で吸収スペクトルを予想したところ、計算結果は分子種の変化に伴う吸収帯の長波長化を再現し、分子種の妥当性を示した。さらなる長波長化を目的として種々の誘導体を設計し、見いだされたジュロリジン体 (2) ならびにジュロリジン-4F体 (3) を合成した。それぞれを10% TFA/クロロホルム溶液に溶解し、吸収・蛍光スペクトルを測定したところ、2の吸収と蛍光の極大波長は676 nmと695 nmに、3ではそれぞれ688 nm と711 nmの長波長側に観察され、置換基効果による光物性の設計・制御を実証した。
1: 当初の計画以上に進展している
設計した化合物は首尾良く合成でき、また予測通りジカチオンの吸収・蛍光波長が長波長化することを確認できた。蛍光については当初の予想を超えた900 nmまでの発光が観察され、分子イメージング用色素への利用も期待できる。副次的ではあるが旧来のABPXに比べて分子種ごとの色調の変化が鮮明であり、強度などのインジケータとして利用する際の大きな利点となると思われる。この原因についても、計算化学により電子遷移と吸収帯を帰属して解明することができた。収率に課題は残っているものの、種々の誘導体化も実践し、吸収・蛍光波長を予測して制御可能であることを明らかにした。計算化学と実験化学を自在に組み合わせることにより、種々のスペクトルの理論的解釈のみならず、目的の物性を有する新規化合物の設計を効率的に行うことができた。
細胞膜透過性などをin vitro実験で確認し、生体応用が可能であるか検討を行う予定である。またジカチオンは可視域全体を吸収することから、色素増感型太陽電池向けの色素として応用検討を行う。誘導体により酸に対する応答性が異なることを確認しているが、この構造と応答性の関係を明らかにし、分子種の比率を制御可能にすることを計画している。本原理を確立した後にこれを応用することで、濃度を判別できる検出試薬やマルチカラー示温インク、多成分が検出できるセンサーなどへの展開を目指したい。前述の目的に沿った認識部位の導入などを実現するため、合成経路の改善は不可欠である。共通中間体を経由することで簡便に誘導化できる新規合成経路を平行して開発し、収率の改善や多様な誘導体の導出に結びつけたい。
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Journal of American Chemical Society
巻: 137 ページ: 6436-6439
10.1021/jacs.5b00877