研究実績の概要 |
本研究では,仮説『アストロサイトによってアミロイドβ (Aβ)凝集が促進された後,凝集Aβで活性化されたミクログリアによってニューロンが障害され,アルツハイマー病の発症に至る』の検証により,アルツハイマー病の新規発症機序を解明することを目的とした。研究課題を,①『アストロサイトによるAβ凝集機序の解明』,②『ミクログリアの貪食によるニューロン障害の機序解明』に分けて,それぞれ検討した。
①アストロサイト培養上清によってAβ凝集は促進され,蛋白質架橋酵素であるトランスグルタミナーゼ(TG)の阻害剤(シスタミン)の添加により,Aβ凝集は阻害された。中枢ではTG1, TG2, TG3, FXIIIの4種類のTGの発現が報告されている。アストロサイトは4種類全てのTGを発現しており,なかでもTG1, TG2, FXIIIは細胞外へ放出されていた。 ②ミクログリアによるニューロン貪食には貪食関連蛋白質であるMFG-E8の関与が報告されている。ニューロン/グリア混合培養系に用時調製したAβを添加したところ,Aβはミクログリアに取り込まれ,MFG-E8と共局在していた。また,ニューロン/グリア混合培養系にAβ凝集体を添加すると,MFG-E8は細胞外でAβ凝集体と結合し,その後,MFG-E8結合Aβがミクログリアに取り込まれた。さらに,Aβの添加によりニューロン数の減少傾向がみられた。シスタミンをΑβと同時に添加すると,ミクログリアによるAβ取り込みは抑制され,ニューロン数の減少は回復した。培養ミクログリアを用いた免疫沈降実験により,MFG-E8とTG2は直接結合することが示唆された。
以上の結果より,アストロサイトが放出したTG類によってAβの凝集が促進され,ミクログリアがTG2を用いてMFG-E8結合Aβを取り込んで活性化することが,Aβによるニューロン障害の引き金となっている可能性がある。
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