研究課題/領域番号 |
15J12261
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北沢 裕 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | カルボランアニオン / 超強酸 / 超求電子種 / ジカチオン種 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、カルボランアニオンを基盤とした新しい反応論、構造論、理論化学の開拓を行う。初年度ではカルボランアニオンの「極めて安定な弱配位性アニオン種、高い結晶性」という性質に着目し、超高活性カチオン種の化学の展開を計画した。超高活性カチオン種としてジカチオン種を選択し、各種スペクトル解析、計算化学の支援により超高活性カチオン種のデザイン / 解析 / 新反応開発への応用を目指した。 具体的にはジカチオン種として、1-ニトロナフタレンのジプロトン化体である 1-ニトロナフタレニウムジカチオンに着目した。カルボランアニオンをカウンターアニオンとして用いた場合、種々の溶媒、温度においても沈殿は生じず、単離することができなかった。そこで、(1) 沈殿形成反応をエントロピー的に有利にする (2) 結晶性を高めることを志向し、当研究室で開発されたカルボランアニオンホモカップリング体である新規ジアニオン種を用いた。化学的耐久性を高めるためにブロモ化したジアニオン種で検討を行ったところ、赤褐色の沈殿がただちに生成し、NMR 解析の結果ジカチオン種であることが確認された。ところが液相液相拡散法により単結晶を作成し X 線結晶構造解析を行ったところ 1-ニトロナフタレンのモノカチオン種であることが明らかになった。DFT 計算による最適化構造と結晶構造を比較すると結合角、結合長ともによく一致しており、モノカチオン種が単離できたことが計算化学の結果からも支持された。再結晶過程でジカチオン種からモノカチオン種への失活が起こったと推定され、より酸性度が高い条件で再結晶法を行うことでジカチオン種が単離できることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超求電子種は超強酸中の鍵反応中間体として考えられており、これまで実験化学 / 分光学/ 計算化学を組み合わせた膨大な研究が行われてきた。一方で X 線結晶構造解析はいまだ達成されておらず、確信的な証拠に乏しいのが現状である。今年度はアニオン部分の分子設計に基づき、ジカチオン種を粉末状態で単離することに初めて成功した。また、1-ニトロナフタレンのモノカチオン種のX 線結晶構造解析も達成することができた。生成した結晶は目的のジカチオン種ではないものの、ジアニオン種を用いる分子設計戦略の有効性が証明され、超求電子種の単離に近づいたと言える。以上から初年度の目標であった超高活性カチオン種の単離 / 解析についてはおおむね達成できたと考えている。 さらに研究過程で明らかになった多価カチオン安定化に対するジアニオン種の有用性は、多価金属カチオンへも拡張できると考えられる。今後の目標である多様な超高活性カチオン種の単離 / 解析 / 応用への準備ができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は再結晶条件の検討を行い 1-ニトロナフタレニウムジカチオンの単結晶作成に取り組む。具体的には過剰の高活性プロトン存在下での結晶生成を実現するために、液体超強酸 / 弱配位性溶媒の混合系の検討を行う。実施にあたって X 線結晶構造解析の測定条件の精査も極めて重要であり、結晶安定化剤の選択、結晶マウント条件、測定温度等の検討も行う。1-ニトロナフタレニウムジカチオンの結晶構造解析が達成できれば他の多価超求電子種の単離 / 解析にも取り組む予定であり、分光学的手法、計算化学を用いた解析によりターゲット化合物の精査を行う。 これと平行してジアニオン種を用いた多価金属カチオンの生成も検討している。極限まで活性化された“裸の多価金属カチオン”の研究はまだ未開拓な分野であるが、今回用いた新規ジアニオン種を用いることでこの課題にアプローチできると考えている。実験化学的手法 / 分光学的手法 / 計算化学的手法を基軸にその利活用にむけて展開していきたい。 以上が次年度の基本方針であるが、先行研究に極めて乏しく、未知の部分が多いため予想外の進展の可能性が十分に見込まれる。その際は進捗状況をふまえて、柔軟な研究展開を行いたい。
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