研究課題/領域番号 |
15J12265
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
小林 啓介 北里大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 天然物化学 / 脂質代謝 / オートファジー |
研究実績の概要 |
真菌由来の化合物 dinapinone A (DPA) は、中性脂質である triacylglycerol (TG) の細胞内蓄積を阻害する。DPA には軸異性体の関係にある dinapinone A1 (DPA1) と A2 (DPA2) が存在し、細胞内 TG 蓄積に対して、DPA1 単独では活性を示さず、DPA2 は IC50 値 0.65 μM で TG 蓄積を阻害するが、2 つの軸異性体を等量で混合した際 (DPA1:1 とする) にその活性が IC50 値 0.054 μM と非常に強い活性増強を示す。また、これまでの研究で、DPA は TG の生合成経路を阻害するのではなく、蓄積した TG の分解を促進している可能性が示唆されている。平成 27 年度は生化学的およびゲノミクス的手法からこの作用機序の解明を目指した。 生化学的手法では、これまでに報告されている脂肪滴 (TG を蓄積する細胞内小器官) の分解経路であるリポリシスとオートファジー (リポファジー) への影響を精査した。リポリシスへの関与は認められなかったが、オートファジーにおいて、DPA1:1 の濃度依存的にオートファジーマーカーである LC3-II 量の増加が認められた。また、この LC3-II 量の増加は DPA1:1 によるオートファジーの促進効果によるものである可能性が示唆された。今後は、オートファジーと脂質蓄積阻害活性との関連性について精査していく。 ゲノミクス的手法としては、マイクロアレイ解析による網羅的な細胞内遺伝子変動の解析を行い、幾つかの作用機序と関連がありそうな候補遺伝子を得た。またそのプロセス中の RNA 解析で、DPA1:1 処理細胞でのみ、濃度依存的な 28S rRNA の消失 (分解) を確認した (細胞毒性は認められない)。軸異性体の混合でのみ認められる表現型としては非常に興味深く、今後はこの切り口からも脂質蓄積阻害活性との関連性について精査していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
軸異性体の混合である DPA1:1 処理によってその細胞が示す表現型が大きく変わる現象として、オートファジーの促進活性および rRNA の消失活性の 2 つを新たに見出した。中性脂質蓄積阻害活性との関連性については今後の検討課題である。しかし、平成 28 年度の研究計画であるケミカルバイオロジー的アプローチ (ケミカルプロテオミクスなど) の実施に伴い、標的候補分子の絞り込みを行う上で、これらの知見は非常に有益なものになると考えられる。本研究について発表を行った化学生物学研究会では、全 20 演題の中より奨励研究賞を受賞した。 また、平成 27 年度は、細胞内の中性脂質代謝を制御するその他化合物として、新規化合物 bafilomycin L と clonoamide、既知化合物ではあったが 2 つの diketopiperazine 化合物についての発見から作用機序までをそれぞれまとめ、論文発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
第一にオートファジーとの関連性を検討する。そのために、現在、GFP が融合した LC3 を発現する細胞を構築中である。この細胞を用いて、脂肪滴マーカー、リソソームマーカーとの多重染色を蛍光顕微鏡で観察することで、DPA1:1 が示すオートファジーの亢進作用により、脂肪滴が分解しているのかを確認する。第二に、ケミカルバイオロジー的アプローチを行う。現在、DPA にビオチンタグをつけた誘導体を合成している。本化合物と、細胞ライセートを反応させ、標的候補分子を網羅的に解析する。
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