研究課題/領域番号 |
15J12297
|
研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
谷口 健太 愛知県立大学, 情報科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
キーワード | 衛星コンステレーション / 相互校正 / 波長依存性 / 植生指数 / ソイルアイソライン / 逆問題 / ハイパースペクトラルデータ |
研究実績の概要 |
本研究では,無数の衛星からなる衛星コンステレーションで収集した,植生指数画像群の整合性を確保するために,各衛星搭載センサの分光特性の違いに起因した系統誤差(波長依存性)の発生機構を解明し,その依存性を解消する相互校正手法の構築を目指す.研究課題2年目の本年度は,昨年度までに構築した相互校正理論を実データへ適用するために改良し,その後,実データにおける波長依存性を調査した. 1.相互校正理論の改良 次の3項目の研究課題に取り組み,本手法の相互校正理論を改良した.(1)本手法の基盤となる反射スペクトルの間の関係式,ソイルアイソライン方程式(SIE)の導出手法を任意の波長へ適用するためにその波長制約条件を緩和した.その後,SIE導出アルゴリズムを数理モデルへ実装し,太陽放射スペクトル領域における大部分の波長組で本手法の適用可能性が示された.(2)SIE逆問題解法の設計に取り組み,本手法で着目する土壌面の状態変数を実データから推定する方法を提案した.ここでは,SIE係数群と観測スペクトルからなるコスト関数を定義することで,計算コストを抑えた最適化手法となることを見いだした.(3)これまでの相互校正理論に上記2項目を補強した理論として再構築した.これら理論的研究成果を博士論文としてまとめた. 2.ハイパースペクトラル(HS)データを用いた波長依存性の調査 衛星EO-1搭載のHSセンサHyperionが観測した詳細なスペクトル情報から,波長依存性を含んだ複数のマルチスペクトラル(MS)センサの観測データを生成し,実データにおける波長依存性を調査した.ここでは,生成したMSデータにSIE逆問題を適用することで土壌分類図を作成し,正規化植生指数NDVIの波長依存性を分析した.その結果,センサの組み合わせに応じて変化する波長依存性の傾向を実データ上で観測することに成功した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画に沿って,まず,相互校正理論を補強した.その後,数理モデル上の実験での検証にとどまっていた本手法の有効性を,実データで発生する波長依存性においても確認した. 理論の補強段階では,実データへ本手法を適用するために不可欠であった,SIEの統一的導出手法を検討するとともに,その逆問題解法を設計した.これにより,モデルの逆問題で直面する悪条件性を回避した形式で,実データの各ピクセルの情報抽出が可能となった.SIEの補強に関する研究成果は国際会議SPIE Optics+Photonics2016で発表した.HSデータを用いた実データにおける波長依存性の調査結果では,理論研究成果と類似した波長依存性の傾向を観測することに成功し,本手法を実データへ適用する研究段階へ進めることができた.一方で,観測される波長依存性の類似性はSIEモデルのパラメータ設定に依存することが判明した.そのため,今後の研究の推進方策に記載したとおり,パラメータ決定問題についての検討を来年度の研究計画に新たに取り入れることとする. 以上のとおり,本手法の実データ適用に関する実験を実施し,波長依存性の発生機構に関する知見が得られており,また,パラメータの設定問題について来年度での検討の見通しが立っているため,「おおむね順調に進展している」と判断する.
|
今後の研究の推進方策 |
課題最終年となるH29年度は,まず衛星コンステレーションを想定した,さまざまな条件における観測データへ適用可能な相互校正アルゴリズムを開発し,その後,実験環境を整え,本手法の実用性を評価する. 1.実データ処理のための相互校正アルゴリズムの開発 これまでに対象とした波長依存性のほか,センサの空間解像度の違いによる影響を調査する.また,本年度の研究成果から,物理モデルにもとづく本手法を実データへ適用する際には,モデルパラメータの適切な設定が必要であることが判明している.そこで,観測ピクセルのずれやセンサの空間特性によらず,モデルパラメータを適切に決定する手法について検討を行い,その手法にもとづく一連の相互校正アルゴリズムを開発する.現在,空間解像度の本手法への影響調査を進めており,その研究成果を7月にアメリカ・フォートワースで開催されるIEEE IGARSS2017で発表予定である. 2.衛星コンステレーションを想定した実験環境の整備およびその実用性評価 さまざまなセンサ特性や観測状況を想定した相互校正の実験環境を整備する.ここでは,前項目で開発したアルゴリズムに大気補正および並列化計算の処理を実装し,いくつかの相互校正のシナリオで実験を実施できる環境を整備する. 整備した実験環境を用いて,多様なセンサおよび観測状況でのデータを処理し,標準化された植生指数データが生成できるか検証する.また,近年一層の大規模化が進んでいる衛星コンステレーション構想に耐えうるか,計算コストなど実利用の観点からも評価する.
|