近年,複数衛星を一体的に運用する観測体制(衛星コンステレーション)の構想が拡大し,地球観測衛星の運用数が急増している.ここから得られる大規模観測データを統合的に扱う際,一機の衛星ミッションでは扱わない問題が発生する.それぞれの衛星に搭載されているセンサの設計仕様差に起因した観測データの不整合性である.その要因の1つとして,波長応答関数のセンサ間での差異の影響(波長依存性)が研究されている. 本研究は,放射伝達モデルに基づく基礎的研究課題を設定し,波長依存性を解消する相互校正手法の開発に取り組んだ.研究課題最終年の本年度は,植生指数データを例にした,以下2課題に取り組んだ. 1.本手法の実データにおける波長依存性の低減可能性に関する数値実験 まず,衛星EO-1搭載センサ,Hyperionが取得したハイパースペクトルデータから,同一観測条件の2種類のマルチスペクトル(MS)データを生成した.その後,2つのMSデータから導出した植生指数NDVIの間に生じる相対誤差(波長依存性)を,放射伝達モデルの逆問題により推定した土壌輝度値で分類し,波長依存性の傾向を調査した.さらに,空間フィルタを適用し,さまざまな空間解像度において実験したところ,土壌輝度推定値が,空間解像度によらず,NDVIの波長依存性の分析に有効であることが示された. 2.本手法の経験的手法とのハイブリッド化の検討 マッチングした観測データの間を回帰式で関連付ける経験的手法を,本手法による分類結果ごとに適用し,ハイブリッド化を検討した.上記1.の実験データを用いたところ,本研究による分類指標を考慮することで,校正の高性能化が図れることが統計的に示された.本研究で開発した相互校正手法は,植生指数における波長依存性の影響を汎用的に低減できる利点を有しており,衛星コンステレーションに対応した相互校正技術となりうる.
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