研究課題/領域番号 |
15J12325
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
畑 遼介 大阪府立大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 量子エレクトロニクス / プラズモニクス / ナノフォトニクス / 量子光学 |
研究実績の概要 |
新奇なエネルギー変換的なコヒーレント光源の理論提案を目的として,アンテナ-分子-応答場の三体が自己無撞着な相互作用をしている系をモデル化した理論解析を行ってきた。今年度の研究で,理想的なパラメーターを想定した解析から,より現実性のある系における解析への拡張を果たした。この成果は掲載論文のジャーナルのカバーピクチャーに選ばれるなど注目を集めた。 これまで、アンテナ-分子-応答場の三体の相互作用を考えることで,通常反転分布しない二準位系に,反転分布が形成でき,更にエネルギー変換的な出力が現れることを提案してきた。この機構を応用することで,例えば赤外領域の太陽光エネルギー利用しやすい可視レーザー光に直接変換することが可能となり,カーボンフリーな社会への貢献が期待できる。しかしながら,本目的の達成のためには、報告者のこれまでの解析モデルをより現実的なものにすることが望ましく,本研究ではそれを目標に、さらに提案している機構の応用可能性を探ることにした。27年度は,①コヒーレント光源への展開可能性を議論するために単分子モデルを複数分子モデルに拡張すること,②アンテナ系よりも実現可能性の高い微小共振器系での上方変換的な発光の可能性を探ること,の二つが目標であった。 ①:先行研究を参考に,複数分子モデルへの拡張のための理論の形成を行った。特に,出力光のコヒーレント度がわかるような理論を構築したため,これを利用することで,出力光がコヒーレント光源であるかどうかの議論が可能である。 ②:微小共振器系では,これまで上方変換的な発光がなかったが,今回の研究で上方変換発光を初めて確認することが出来た。また,①の理論と合わせることで協力放射が確認できた。この成果は学会などで発表を行ってきた。 以上のことから,今年度の目標を達成することができ,来年度はこれらの成果を論文として投稿予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標は,①コヒーレント光源への展開可能性を議論するために単分子モデルを複数分子モデルに拡張すること,②アンテナ系よりも実現可能性の高い微小共振器系での上方変換的な発光の可能性を探ること,の二つであったが,これらを達成することができたためである。 アンテナと入射光を現実的なものにするために,アンテナは文献の実験結果を再現可能なモデルに,入射光は生成しやすくアンテナへのダメージが少ないパルス光源へと拡張した。このモデルを用いた数値解析を行った結果,レーザーへの利得がある反転分布状態が形成でき,上方変換的な放射の可能性が確認された。ここから,コヒーレント光源素子へのデバイス化の提案に向けて,複数分子系への拡張手法を構築した。この手法には,N粒子系から出力される光のコヒーレンス度を計算方法が含まれているため,現在これを利用した数値計算手法を構築しており,次年度では上方変換した出力光のコヒーレンスを議論する論文を投稿予定である。 また,実現性の高い微小共振器系への拡張も行った。ここでは先に構築したパルス光源の理論を利用することで,反転分布を伴った上方変換的な出力スペクトルの可能性がこの研究で初めて明かにされた。更に,前述で構築した複数粒子系の理論を利用することで,協力放射が起こり,出力スペクトル幅が増大することがわかった。 以上のように,27年度は研究実施計画に基づいて順調に研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,モデルをより現実に則したものへと拡張するための理論の構築を行った。この理論構築に関しては,おおむね順調に成果を出すことができているため,来年度はこの構築した理論を利用した数値解析を行い,論文として投稿する予定である。 特に微小共振器系からの上方変換発光は,本研究で初めて提案されたものであるため,これの論文を投稿することが急務である。ここで構築した理論は,本研究テーマを達成する上でとても重要である。現在まで,入射光源として強いレーザーを前提とした研究を進めてきたが,本研究テーマを達成するためには太陽光などの弱い光を入射光とする必要がある。この拡張に関しては現在までの研究で十分対応が可能であり,あとは実際に数値解析プログラムの作成と,結果の解析を行うのみである。 そのため,来年度は新たな理論の構築ではなく,今まで作り上げてきたものを利用して,実際に成果を上げていくつもりだ。
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