新奇なエネルギー変換的なコヒーレント光源の理論提案を目的として,補助系-分子-応答場の三体が自己無撞着な相互作用をしている系をモデル化した理論解析を行った。今年度の研究で,補助系として光アンテナと光共振器という二つの系を用い,上方変換型コヒーレント放射機構として応用可能性を議論し,十分応用可能であるという結果を得た。 前年度までの研究成果で、光共振器や光アンテナなどの補助系を利用することで2準位系に定常的な反転分布と,上方変換発光の二つが同時に起こることを提案した。この機構は,例えば赤外領域の太陽光を,エネルギー利用しやすい可視レーザー光に直接変換することが期待でき,カーボンフリーな社会への貢献が期待できる。28年度は,①アンテナ系を複数粒子系に拡張した場合の励起特性,②共振器における出力光特性の解析の議論を行った。 新奇なコヒーレント光源としての議論をするために必要な上記の目標を高水準で達成できた。まず,アンテナ系では,複数粒子系の計算を近似的に取り扱うクラスター展開を利用した。その結果,粒子が複数個あった場合においても反転分布状態が形成でき,上方変換的なコヒーレント光放射の可能性が確認された(目標①の達成)。上方変換レーザーという新奇光源への応用が期待できる。 また,共振器系を複数粒子系に拡張を行うことで,コヒーレントな協力放射である超蛍光と同様の振る舞いを見せることを示した(目標②の達成)。前年度の研究で構築したモデルに前述のクラスター展開を適応し,入射光を急速に遮断することで,上方変換的な放射が見られた。特に,反転分布が形成されているときに超蛍光が現れることを示した。このことから,共振器系においても,新奇光源への応用可能性を有することがわかった。これらの成果は現在,論文として投稿中である。以上のように,28年度は研究実施計画に基づいて順調に研究を進めることができた。
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