研究課題
本研究では、組織修復に寄与する組織非自律的な応答の解明を目指す。組織再生の分子メカニズムの解明は生物学や医学における重要な課題の一つであり、様々な分子機構が明らかになってきた。しかし、これまで行われてきた再生研究は傷害部位における組織自律的な分子メカニズムの解析が中心であり、組織非自律的な恒常性維持機構という観点から再生を捉える研究は少なかった。その理由の1つとして、実験系の確立が困難である事が挙げられる。再生における組織間相互作用の全貌を明らかにするには、組織傷害を行った際に別の組織において網羅的な遺伝学的解析が出来る事が望ましい。そのため我々は、ショウジョウバエの遺伝学と温度感受性ジフテリア毒素を組み合わせることで、一過的な組織傷害と非傷害組織における遺伝学的解析を並行して行えるDual Systemを構築した。この系とUPLC/MS-MSを用いた分析により、昨年度は脂肪体におけるメチオニン代謝の適切な調節が成虫原基における組織修復に必須であることが示し、体内環境が組織の治癒力に与えるメカニズムの一端を論文にまとめ発表した(Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 Feb 16;113(7):1835-40.)。昨年度はまず、成虫原基の修復初期における体液組成のメタボローム解析により、修復時の体内環境の変動を網羅的に調べた。その結果、先述したメチオニン代謝の変化だけでなく、様々な代謝産物の変化が見られた。そのうちの一つとして、必須アミノ酸の一種であるトリプトファンの代謝に変化が見られた。トリプトファンの多くは脂肪体でキヌレニンに代謝されていることから代謝酵素の発現を調べたところ、修復初期に脂肪体で発現が上昇していることが判明した。そこで脂肪組織特異的に代謝酵素を抑制したところ、成虫原基の組織修復が阻害されることを発見した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、脂肪体や脳といった分泌組織から、どのようなシグナルが伝達されて成虫原基の修復に寄与するか解明することを目的としている。これまでの研究によって新たに、成虫原基における傷害が遠隔的に体液のトリプトファン代謝産物を変化させ、その適切な代謝の制御が成虫原基の組織修復に重要であることを明らかにした。トリプトファン代謝を変化させる具体的な分子メカニズムの同定や修復の制御メカニズムの解明には未だ至っていないが、トリプトファン代謝が組織修復に遠隔的に寄与していることを示すことに成功した。
今後は、トリプトファン代謝経路の代謝産物がどの組織でどのように働くのかの分子メカニズムを、遺伝学的解析、生化学的・分子生物学的解析によって明らかにし、組織間相互作用が再生・組織修復に与える新規のメカニズムの解明に向けてさらに深く研究を進める。
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Fly (Austin)
巻: Jan 2;11(1) ページ: 27-36
10.1080/19336934.2016.1221549.