本年度は、分子シミュレーションの観点から、「微量の生体物質によって細胞機能を変化させる生体協調型高分子ゲルの開発」に取り組んだ。当初提案した研究に対し、より基礎的な知見を得る必要性があり、高分子ゲルの力学特性の研究に注力した。 ① ネットワークポリマーの調製条件と力学物性の関係 架橋高分子の力学特性を左右する一つの因子として、ネットワークを調製する際の反応濃度が挙げられる。そこで、分子シミュレーションを用いて、様々な濃度で星型高分子を架橋し、ネットワーク構造と力学特性への影響を調べた。星型高分子を重なり合い濃度で架橋させた所、比較的均一なネットワーク構造が得られ、歪が小さい所で、ファントムネットワークモデルに漸近した。これは、重なり合い濃度で、理想網目に近い構造を形成し、物理モデルで力学特性を表現できたと考えられる。低濃度で架橋した場合、ループの形成により、応力の低下が見られた。一方、高濃度では、絡み合いの効果により、疑似的な架橋点を形成したため、物理モデルより高い応力にずれた。 ② ネットワークポリマーの力学特性に対する分子間相互作用の影響 ネットワークポリマーの分子間相互作用は、疑似的な架橋点として振る舞うため、エラストマーなどの力学特性へ影響する。そこで、分子シミュレーションを用い、任意の相互作用をネットワークポリマーに導入し、力学特性への影響を調べた。テレケリック型のネットワークポリマーの20%の粒子に対し、レナードジョーンズポテンシャルのエネルギー深さ、つまり結合エネルギーに対応する値を変化させて、一軸伸長を行った。結合エネルギーが低い条件では、応力-歪曲線の変化は見られなかった。一方、ある閾値より大きいと、結合エネルギーの増大により、応力の上昇が見られた。また、Mooney-Rivlinプロットが水平から逸脱した事から、一時的な架橋点として振る舞う事が示唆された。
|