研究課題
β2ARの膜貫通ドメインと、C末端領域を、それぞれ分離インテイン融合タンパク質として発現、精製した。両者をプロテインスプライシング反応により連結することで、全長β2ARを調製し、これをrHDLの脂質二重膜中に再構成した。完全アゴニストであるフォルモテロールまたは逆アゴニストであるカラゾロール結合状態で、GRK2によるリン酸化アッセイを行い、完全アゴニスト結合状態の方が逆アゴニスト結合状態よりもリン酸化速度が亢進していることを確認した。確立した試料調製法を用いて、C末端領域のみが2H,13C,15N標識されたβ2AR-rHDLを調製し、NMR法による解析を行った。非リン酸化状態、リン酸化状態の両方で、観測されたシグナルの帰属を確立した。GRK2を添加した条件で、主鎖を観測対象としたNMRスペクトルを連続的に取得し、スペクトルの経時変化を追跡した。C末端領域のうち、膜貫通領域に近い残基に由来するNMRシグナルの経時変化の速度が、他の残基に由来するシグナルの経時変化の速度よりも速かった事から、これらの残基がGRK2により効率的にリン酸化されると結論した。以上の成果を、第53回生物物理学会年会にて発表した。C末端領域に分布する側鎖メチル基をプローブとしたNMR解析を行い、T360側鎖メチル基由来のシグナルがリン酸化状態において13C方向に顕著に広幅化していることを見出した。また、分子内交差飽和実験を行い、T360側鎖メチル基由来のシグナルがラジオ波照射依存的に強度減少することを示した。以上の結果から、β2ARC末端領域のうち、膜貫通領域に近い領域が、リン酸化に伴い膜貫通領域との相互作用を伴う構造変化をすると結論した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、当初の研究計画通り、分離インテインを用いたβ2ARC末端領域の区分同位体標識法の確立、NMR法によるC末端領域のリン酸化部位の決定、線形解析および交差飽和法を用いたリン酸化に伴う構造変化様式の解明を達成した。また、次年度に予定しているアレスチンとの複合体の解析ヘ向けたアレスチンの調製にも着手済みである。したがって、研究がおおむね順調に進展していると考えた。
β-アレスチン1のメチル基由来のNMRシグナルを変異体、メチル基間のNOEと結晶構造距離情報を利用する事により帰属する。β2ARとβ-アレスチン1の結合をゲルろ過解析およびアゴニストの親和性のシフトを指標に評価する。β2AR-β-アレスチン1複合体を調製し、β2ARのC末端領域およびβ-アレスチン1のNMRシグナルの化学シフト変化や線形解析を行う事で、β2ARC末端領域およびβ-アレスチン1の動的構造に関する情報を取得する。β2ARに結合するリガンドや、C末端領域のリン酸化状態を変化させた状態で上記の解析を行い、結果を比較する事によりシグナル伝達活性と相関した動的構造を同定する。β2ARとβ-アレスチン1の複合体の親和性が不十分である場合、β2ARのC末端領域の配列をバソプレシン受容体C末端領域の配列に置換したキメラ受容体(β2V2R)の利用を試みる。β2V2Rを利用する場合には、複合体中のNMRシグナルを、申請者の受入研究室で確立された昆虫細胞発現系によるアミノ酸選択標識法を適用することにより解析する。
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