ケイ素は炭素と同じ周期表の14族に属すことから、創薬化学においてケイ素を炭素の代替元素として利用することが試みられている。炭素をケイ素に置換する効果として、分子サイズ・結合角の変化、脂溶性の向上、電気陰性度の違い (電荷の偏り) により、活性、選択性、体内動態等の変化・改善が期待される。また、ケイ素に置換することで化合物の特許上の新規性が得られる可能性もある。 まず、ジフェニルシラン骨格を利用した例として、私はステロイドスルファターゼ(STS)阻害剤の創製に着手した。ビスフェノール型STS阻害剤の報告例がすでにあったが、代謝物がエストロゲン状態(ER)αアゴニスト活性を有することから乳がん治療薬としては問題があった。そこで、本研究ではケイ素を用いた構造展開を行い、STSを阻害した後、ERαアンタゴニストとして機能するジフェニルシラン誘導体を見出した。 続いて、長鎖脂肪酸中のシスオレフィンをケイ素リンカーで置換した際の生理活性の変化を、内因性の脂肪酸アミドであるOEAを用いて検討した。ペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体(PPAR)αアゴニストとしても知られるoleoylethaolamide(OEA)は構造中にシスオレフィンを有する。OEAのシスオレフィンをケイ素リンカーで置換した際の生理活性の変化を、PPARα/δ/γに対する転写活性を指標として評価した。その結果、ケイ素リンカーへの置換と炭素鎖長の最適化によりPPARαアゴニストOEAからPPARδアゴニストの創製に成功した。
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