研究実績の概要 |
先行研究において、脳虚血ストレス負荷後に誘導される高血糖状態が、その後の神経障害発現を増悪させることを報告している。しかしながら、虚血後高血糖による増悪機序は不明であったため、本申請者は、糖の作用する点として、sodium-glucose transporter (SGLT) に着目し、研究を行ってきた。SGLT はグルコースとナトリウムを細胞内へ共輸送する二次性能動輸送体であり、脳内には SGLT-1, 3, 4, 6 が存在する。これまでに、脳内 SGLT が脳虚血性神経障害の発現増悪に関与する可能性を明らかにしてきた。しかしながら、脳内 SGLT を介したこの増悪と虚血後高血糖との詳細な関連は不明であったため、 in vitro および in vivo の脳虚血モデルを用いて検討を行った。その結果、脳内 SGLT は虚血後高血糖状態、すなわち、通常よりも血糖値が高い状態でのみ、神経細胞死を増悪させている可能性が示唆された。また、脳内 SGLT アイソフォームの中でも、神経に発現していることが知られている SGLT-1 に着目した検討を行ったところ、脳内 SGLT アイソフォームの中でも、特に脳内 SGLT-1 が脳虚血性神経障害の発現増悪に関与している可能性が示唆された。さらに、脳虚血ストレス負荷後の脳内 SGLT-1 発現誘導機序の一部に、AMPK の活性化が関与している可能性が考えられた。加えて、脳内 SGLT を介したナトリウム流入が脳虚血性神経障害発現へ及ぼす影響にも焦点を当て、検討を行ったところ、脳虚血ストレス負荷によって高血糖状態が生じることで、脳内 SGLT を介したナトリウムの細胞内流入が過剰になり、脳虚血性神経障害の発現が増悪する可能性が示唆された。脳卒中に対する脳内 SGLT の役割を解明することは、本研究分野の発展にも多いに貢献できる。
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