研究課題
本研究では、記憶を想起する際の海馬神経回路の活動特性を解明することを目的としている。過去の知見から、記憶の想起時には、記憶に関わる複数の細胞が同時に活動していると考えられている。これまで当研究室では、多数の神経細胞を同時に記録する技術としてカルシウム画像法が用いられてきた。しかし、カルシウム画像法でとらえられる細胞のカルシウム活動は、電気生理学的記録に比べ空間分解能は高いが時間分解能が低い。一方、当研究室の得意とするin vivoの生理学的記録は、急性での単一細胞からの記録がメインであった。本研究を遂行する上では、これらの特性を合わせ持つ、多数の神経活動をSN比を高く保ちかつ、同時に記録可能な手法がより適していると考えた。そこでまず、電気生理学的に多数の神経活動を同時に記録できるテトロード記録システムの立ち上げに取り組んだ。本システムは、複数の記録電極を慢性的に埋め込むことができるため、本研究のような記憶学習・想起といった長期間の記録にも適していると考えられる。本研究では今後、遺伝子改変マウスが必要となる。そのため、小型動物の頭部に慢性的に埋め込めるような小型電極を用いる必要があった。私は、マウスのテトロード記録技術が既に立ち上がっている研究室を探し、理研BSIにてその技術を学んだ。そして、学んだ技術をもとに、マウスの頭部に乗せることが可能なマイクロドライブ(32チャネル:32本の電極から神経活動の記録が可能)の設計に取り組んだ。この独自のマイクロドライブの設計のために、さらに外部講習に参加して設計技術(3D CAD)を学び、近年他分野で利用されつつある3Dプリンターを新たに導入した。そして、実際にマウス頭部に慢性的に埋め込むことのできる32Chマイクロドライブの作製に成功した。加えて、この32Chドライブを用いてマウス海馬からの神経活動の記録に成功した。
2: おおむね順調に進展している
本研究を遂行する上で基盤となる、以下のことについて完了したため。1.遺伝子改変マウスが機能的に使用可能であることが確認された2.神経活動の記録方法を新たに立ち上げ、さらに本手法を用いて実際に神経活動の記録が可能になった
今後は、マウスに学習課題トレーニングを行い、本年度に立ち上げた記録システムを用いて、学習時・想起時の神経活動を記録していく。
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