本研究は、記憶を想起する際の海馬神経回路の活動特性を解明することを目的としている。前年度までに、電気生理学的に多数の神経活動を同時に記録できるテトロード記録システムを立ち上げた。本年度は、本システムをさらに改良し、単一領域ではなく、記憶に関連する複数の脳領域の活動の同時記録を可能にした。そして、本システムを用いて、記憶に重要な脳領域である海馬と前頭前皮質の活動を同時に記録し、この2領域の協調性について調べた。 過去の知見から、海馬と前頭前皮質は、個々の脳領域での機能解明が進み、ともに記憶に重要な脳領域として知られている。脳は多数の領域が協調した活動をすることで初めてその機能を発揮する。そこで本研究では、まず上記2領域における神経活動の関係をまず明らかにすることで、海馬の神経活動特性を記述したいと考えた。具体的には、海馬と前頭前皮質にテトロード電極を慢性的に埋め込み、マウスの行動中の、海馬-前頭前皮質の基本的な活動特性について調べた。すると、海馬-前頭前皮質の脳波は、新奇環境だけでなく、慣れた環境においてもシータ帯域で同期した活動を繰り返していることが明らかとなった。この2領域におけるシータ帯域の同期活動が記憶に必要であるかを調べるため、人為的に同期活動を操作する実験システムを新規構築した。まず、前頭前皮質-海馬間の脳波の同期度合いをコンピューター上で計算し、オンラインで算出する。次に、算出された同期度が低い(あるいは高い)場合にのみ、マウスに報酬を与える。現在は、この操作を数秒ごとに繰り返すことで、マウスが報酬を求めて2領域間の同期度合いを崩すことができるか検討中である。 本研究は、海馬だけでなく、記憶関連領域である前頭前皮質の活動にも着目することで、海馬神経回路の活動特性を、他領域への影響を含めて明らかにすることができる、重要な知見である。
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