研究課題/領域番号 |
15J12517
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
遠藤 垂穂 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 神経発生 / ポリコーム群タンパク質 |
研究実績の概要 |
マウス大脳新皮質の神経幹細胞は、発生早期においてはニューロンとグリア細胞を産む分化能を有するが、発生後期においてはニューロンを産む能力を失ってグリア細胞しか産まなくなることが知られている。これまでに、この神経幹細胞の分化運命転換に遺伝子発現抑制因子であるポリコーム群タンパク質が関与していることが報告されているが、詳細なメカニズムについては明らかとなっていない。 本研究ではこれまでに、発生早期と発生後期では神経幹細胞におけるニューロン分化関連遺伝子の抑制状態に質的な違いがある可能性を見出し、発生早期型抑制の特徴を得た。さらに、発生後期型の抑制を形成するメカニズムとしてPolycomb body(ポリコーム群タンパク質の核内凝集体)に着目し、発生後期にはニューロン分化関連遺伝子がPhc2(Polycomb body形成因子)に依存した抑制を受けている可能性を示唆する結果を得た。次に、各発生時期の神経幹細胞を用いた免疫染色によりPolycomb bodyを観察したが、発生時期によってPolycomb bodyの状態(大きさ、数、他の核内構造体との局在関係)に顕著な差はなかった。しかし、神経幹細胞の核内で粒状に多数存在する凝集体1つ1つの大きさや局在は均一ではなかった。この結果から、Polycomb bodyには役割の異なるサブクラスが存在して神経幹細胞の分化運命転換に貢献している可能性を考え、研究を進めている。これらの結果はこれまで明らかとなっていなかったポリコーム群タンパク質の機能の一端を明らかにするだけではなく、神経幹細胞の分化運命制御の解明に近づくという点で非常に意義深いものであると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大脳新皮質神経幹細胞におけるポリコーム群タンパク質の発生時期特異的な遺伝子抑制様式の一端が明らかになり、神経幹細胞におけるPolycomb bodyのサブクラスが存在する可能性を示唆する結果を得たため。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果からポリコーム群タンパク質が形成する多数の核内凝集体(Polycomb body)には機能の違う集団が存在する可能性が考えられる。しかし、発生時期によってこれら個々の構造体は顕著に変化していないようだった。そこでImmuno-FISH(免疫染色-蛍光 in situ ハイブリダイゼーション)によって、発生時期が進むにつれてPolycomb body自体が変化するのではなく標的遺伝子が核内を移動している可能性を検証する。さらに、この可能性を検証するためには単一の遺伝子座を用いたFISH実験では不十分である可能性があるために、特定の発生時期におけるポリコーム標的遺伝子群すべてをFISH probeとして用いてPolycomb bodyのサブクラス及びポリコーム群タンパク質による遺伝子制御の新たな機能を解析する実験系を確立する予定である。
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