当研究の目的は、ハゼ類による甲殻類の巣穴利用に関する片利共生の基礎研究を築くことである。複数の巣穴共生系において片利共生に関する克明な定量的デー タを得るため、以下の研究を進めた。 昨年度に引き続き、ウキゴリ属クボハゼの巣穴利用時間を室内観察により明らかにした。その結果、クボハゼはスナモグリ類よりもアナジャコ類の巣穴を有意に長く利用していることが確認された。 宿主となるアナジャコの日本の北限にあたる北海道の厚岸湖でハゼ類の採集を行った。その結果、エドハゼとヘビハゼがその巣穴を利用していることを明らかにした。エドハゼの分布は、これまで本種の国内における分布北限として知られていた宮城県万石浦からは500 km以上北方に更新され、本調査地が国内分布の北限となった。 また、アナジャコ類・スナモグリ類の巣穴を利用するウキゴリ属が分布していない、鹿児島県奄美群島の干潟で調査も行った。その結果、ハゼ科魚類6種に加えて、複数の科の魚類4種が巣穴を利用していたことが明らかになり、ハゼ類ではクモハゼ類が最も多く採集された。このことにより、干潟域の甲殻類の巣穴は、広く魚類に利用されるという一般性があることが確認された。 さらに、日本に生息するアナジャコ類やスナモグリ類の巣穴を利用する魚類についてまとめた。アナジャコ類とスナモグリ類の巣穴利用は複数のハゼ類の系統において進化したこと、甲殻類の巣穴利用を行う系統には偏りがあることが明らかになった。巣穴を利用するハゼ類の系統には偏りが見られることから、ハゼ類と甲殻類の進化的な主観関係が巣穴利用の有無や程度を決めていることが強く示唆された。
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