研究課題/領域番号 |
15J12688
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
中田 大貴 長岡技術科学大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | マグネシウム合金 / 展伸加工 / 時効硬化 / 機械的性質 / ミクロ組織 / 集合組織 |
研究実績の概要 |
輸送機器の軽量化を促進し、交通輸送分野での二酸化炭素排出量を削減するためには、構造用金属材料の中で最も軽量なマグネシウム合金の展伸材を利用することが望まれる。しかし、現在普及している汎用マグネシウム合金は、既存の構造材料と比べて、加工性や強度が著しく劣るため、マグネシウム合金の実用化に際しては、低コストで製造可能な高性能マグネシウム合金の開発が必要である。平成27年度は、アルミニウム合金のように高速で押出し可能で、強度と延性に優れるマグネシウム合金の開発を目的として、時効硬化型Mg-Al-Ca-Mn合金の押出し性やミクロ組織・機械的性質に及ぼすプロセス条件の影響を詳細に調べた。検討合金は、均質化処理後に炉冷を施すことで、24m/minの高速押出しでも表面割れを生じない。さらに、アルミニウム添加量を1.2at.%まで増やすことで、短時間でも大きな時効硬化を示すため、Mg-1.2Al-0.2Ca-0.2Mn(at.%)合金は、6N01アルミニウム合金ピーク時効材よりも高い288MPaの引張降伏応力を示す。また、上記合金は、21%の十分な伸びも示すことから、既存の6000系アルミニウム合金の代替材料として使用できる可能性が十分ある。一方、低濃度のアルミニウムを含むMg-Al-Ca-Mn合金のMn添加量を増やすことで、時効硬化量は低下するが、微細かつ高密度なAl-Mn粒子の形成により、結晶粒の微細化に顕著な効果があることから、1%程度のアルミニウムを添加したMg-Al-Ca-Mn合金は、時効硬化と結晶粒の微細化による高強度化、および圧延材として応用する際に必要となるベークハードニング性を期待できる。平成28年度は、マグネシウム合金圧延材の実用化を目指して、Mg-Al-Ca-Mn合金の1)機械的性質とミクロ組織、2)ミクロ組織とプロセス条件の定量的な関係を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
低融点の晶出化合物を固溶させるための均質化処理後に炉冷を施し、あらかじめマグネシウムマトリックス内に粗大な析出物を分散させ、押出し加工時のマグネシウムマトリックス中の溶質元素量や微細析出物の体積率を低減することで、Mg-Al-Ca-Mn合金の押出し速度を6000系のアルミニウム合金に匹敵するまでに高め、かつ、押出し加工後の時効硬化により、現在、新幹線の構体に利用されている中強度・高速押出し用6N01アルミニウム合金以上の機械的性質を付与したことは、マグネシウム合金の展伸材を輸送機器に応用するための大きな進歩である。さらに、1) Mg-Al-Ca-Mn合金中のアルミニウム添加量の最適化により、大きな時効硬化をわずか30分の時効時間により付与できること、2) Al-Mn粒子の粒界ピン止めによる結晶粒径の微細化、3) G.P. zoneの高密度な分散により、引張変形中の双晶の形成を抑制し、延性をほとんど低下させず、強度特性を向上できることも明らかにした。上述の結果は、ベークハードニング性や室温成形性を必要とする圧延材の製造にも利用できる知見であることから、Mg-Al-Ca-Mn合金は、押出し材としてだけではなく、圧延材としての応用にも期待できる。なお、Mg-Al-Ca-Mn合金の室温・高温下での変形メカニズムについては明らかになっていない点が多い。今後、マグネシウム合金展伸材の組織制御や室温成形性の改善に取り組む際、変形メカニズムの解明は必須であることから、平成28年度以降、室温・高温下での変形メカニズムについて徹底的に検討する。
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今後の研究の推進方策 |
マグネシウム合金の圧延材の実用化に際しては、室温成形性およびベークハードニング性の付与が重要な課題となる。平成27年度の研究では、Mg-Ca-Mn合金への1at.%程度のアルミニウム添加により、わずか30分の時効処理にて大きな時効硬化を達成でき、汎用マグネシウム合金にも、ベークハードニング性を付与できることを明らかにした。さらに、微細なAl-Mn粒子の粒界ピン止めにより、500℃という高温の溶体化処理後でも、10μm程度の微細な結晶粒径を保持することや、G.P. zoneの高密度な分散により、室温変形中の双晶変形の発生を抑制し、延性を改善できることも示した。マグネシウム合金では、結晶粒径を微細化し、双晶変形の発生を抑制することで、延性を改善できるため、Al-Mn粒子やG.P. zoneの微細かつ高密度な分散により、強度特性のみならず、延性および室温成形性も改善できる可能性がある。すなわち、1at.%程度のMg-Al-Ca-Mn合金は、圧延材に必要な室温成形性とベークハードニング性を同時に発現でき、圧延材の実用化を期待できる材料といえる。そこで、平成28年度は、1at.%程度のアルミニウムと0.1at.%~0.4at.%のマンガンを添加したMg-Al-Ca-Mn合金を用いて、展伸加工(主として圧延加工)を施し、(1)機械的性質に及ぼすミクロ組織の影響、(2)ミクロ組織に及ぼすプロセス条件の影響を詳細に調べる。その際、Mg-Al-Ca-Mn合金の室温・高温下での変形メカニズムも詳細に調べ、マグネシウム合金の高性能化に向け、原理・原則に基づいた組織制御技術を確立し、アルミニウム合金に匹敵する加工性と機械的性質を有するマグネシウム合金を開発する。
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