PD3年目ということで、研究のまとめ、研究発表と論文執筆を中心に行った。5月には、神戸大学で開かれた文化人類学会で「人新世」についてのパネルを主催し、生命科学の人類学のみならず、テクノロジーの人類学、環境科学の人類学などを行っている人類学者と共に発表・ディスカッションを行った。国際的に行われている「人新世」の議論を日本のアカデミアに紹介するだけでなく、本研究で得た独自の視点で「人新世」を考える視点を提供し、多くのオーディエンスから好評を得た。加えて、5月末にニュースクールより、研究者を招聘し、大阪大学においてPhD workshopを開催し、京都大学、大阪大学、コペンハーゲンIT大学、香港大学などの若手研究者との研究会を開催した。 また、環境科学の人類学を行っている大阪大学森田敦郎准教授とともに共著の原稿を執筆し、それを森田准教授が9月にポルトガルの国際会議で発表している。自分の研究としてまとめるだけでなく、他の研究と結びつけることで、研究で得た理論や概念を発展させることに努めた。 論文執筆に関しては、英語の博士論文を書き上げ、12月に大阪大学人間科学研究科へ提出した。理論的考察部分では、ハンス・ジョルグ・ラインバーガーの実験システムという概念にヒントを得て、事例であるトランスレーショナル・リサーチのラボの分析に合うように「エコロジー」という概念を発展させた。続く事例部分(2ー5章)では、ラボにおける細胞培養や、動物実験をエスノグラフィックに詳細に記述し、分析した。この博士論文により、現代の生命科学研究の一端を明らかにすることができた。妊娠の体調不良、出産前後の休業により研究が中断されたが、全体としてこの博士論文をもとに複数の論文を国際ジャーナルへ投稿する準備が整った。
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