研究課題/領域番号 |
15J30007
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
眞島 いづみ 北海道医療大学, 歯学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | Veillonella tobetsuensis / Autoinducer-1 / Autoinducer-2 / Cyclo-Leu-Pro / Veillonellaゲノムプロジェクト / ドラフトゲノムシークエンス |
研究実績の概要 |
口腔バイオフィルム(歯垢)は歯周病の直接的原因である。その初期形成を担う、Streptococcus(ストレプトコッカス)属細菌とVeillonella(ベイオネラ)属細菌が定着しやすい個体環境を持つ宿主(ヒト)は、将来的に歯周病に罹患しやすいことが考えられる。本研究では両細菌属を用いて、歯周病の個体差別予防モデルの構築を目的として研究を進めている。 これまでの研究過程から、我々が新菌種として発見したV. tobetsuensis(ベイオネラ トウベツエンシス)由来の細菌間情報伝達物質がその形成に重要な役割を担うことが示唆された。 平成27年度は主に以下の研究成果を挙げることが出来た。1.V. tobetsuensisの培養上清から3種類の細菌間情報伝達物質Autoinducer(AI)-1, AI-2及びCyclic-di-peptideを検出した。AI-1, AI-2に関しては部分精製まで行い、現在完全精製に向けて研究を遂行中である。Cyclic-di-peptideに関してはGC-MSのライブラリーより、Cyclo-Leu-Proであることが明らかになった。2.Veillonellaゲノムプロジェクトを立ち上げ、V. tobetsuensis ATCC BAA-2400T(標準株)のドラフトゲノムシークエンスを行い、ゲノムライブラリーを作製後、全データをGenBankに登録した。またこの研究成果はGenome Announcementsに報告した。 本研究により、口腔バイオフィルム初期形成の役割を大きく担うV. tobetsuensisの情報伝達物質とそのゲノム情報が明らかになったことで、歯周病の原因である口腔バイオフィルムの形成機序が解明され、その予防法の開発にも繋がる重要な結果を得ることが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に基づき、以下1.~4.の要領で研究を遂行中である。 1.V. tobetsuensisの培養上清から3種類の菌体間情報伝達物質AI-1, AI-2及びCyclic-di-peptideを検出した。AI-1, AI-2に関しては部分精製まで行い、現在完全精製に向けて研究を遂行中である。Cyclic-di-peptideに関してはGC-MSのライブラリーより、Cyclo-Leu-Proであることが明らかになった。 2.Veillonellaゲノムプロジェクトを立ち上げ、V. tobetsuensis ATCC BAA-2400T(標準株)のドラフトゲノムシークエンスを行い、ゲノムライブラリーを作製後、全データをGenBankに登録した。またこの研究成果はGenome Announcementsに報告した。 3. 上記項目2.の結果から、V. tobetsuensis由来AI-2産生に直接的に関わるLux S遺伝子の検索を行ったが、該当遺伝子は存在しなかった。しかし、明らかにV. tobetsuensisの培養上清からAI-2活性が認められていることと、AI-2の前駆体をコードする遺伝子が見つかったことから、V. tobetuensisのAI-2産生は通常の細菌のそれとは別経路で行われていることが示唆された。さらに、AI-1及びCyclo-Leu-Proの産生に関与するコード遺伝子は現在検索中である。 4. 上記項目3.において検索中の遺伝子の欠損株を作製するにあたり、CRISPR/Cas9及びCpf1システムを用いた口腔細菌では初のゲノム編集技術確立に向けて実験中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果から、V. tobetsuensisには既報のAI-2産生に関与するLux S遺伝子が認められなかったため、AI-2に関しては精製からアプローチする。また、AI-1およびCyclo-Leu-Proの両者に関しては、コード遺伝子の検索、同定を進める。 V. tobetsuensisの上記遺伝子の欠損株作製を進めるに当たり、CRISPR/Cas9及びCpf1システムを用いたゲノム編集技術の確立を行う。これまで本システムは細菌由来であったことから、細菌自体への応用は難しいと考えられていたが、近年Streptococcus pneumoniae (S. pneumoniae)や、Escherichia coliでその成功が確認された(Jiang W et al., CRISPR-assisted editing of bacterial genomes, Nat Biotechnol. 2013, 31(3):233-239)。本研究では現在、このS. pneumoniaeをコントロールとしてVeillonella属細菌、とくにV. tobetsuensisのゲノム編集技術を確立中であり、今後、AI-1、AI-2及びCyclo-Leu-Pro産生能欠損株を作製予定である。また、これら欠損株を用いた、口腔バイオフィルム形成実験を行い、実際に、これらV. tobetsuensis由来の細菌間情報伝達物質がバイオフィルム形成に及ぼす影響を解析する。 また、研究計画に従い、Veillonella属及びStreptococcus属細菌が口腔内に定着しやすい個体別条件の解析及び、両者が口腔内に定着しやすい遺伝子(群)の解析を進めるに当たり、ヒト口腔内から唾液サンプル採取を行い、取得サンプル数が一定量に到達した時点で、メタゲノム解析に着手する。
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