研究課題
社会性において重要な役割を果たす、「共感」は、社会的文脈において、他者の心的および感情的な状態を推測することに基づいており、自分自身の感情と他者の意図や気持ちを洞察する認知とが融合してできたものであるとされている (Decety & Jackson, 2004)。共感には、乳児が母親の内面を感じる体験である感情移入としての感情的共感 (一次的共感) (Kohut, 1966)と他者の立場に立ち感情を理解するという認知的共感 (二次的共感) (Kohut, 1977)があるとされており、発達段階の過程で獲得されていくものとされている。しかしながら、親子間や夫婦間などの自己と親しい他者との双方向の共感が同期していく三次的共感の心理的・神経学的メカニズム(以後、三次的共感)は明らかにされていない。三次的共感に必要な認知機能に関して、発達心理学および神経科学のアプローチを用いて家族内の共感体験に関与する心理・神経基盤を探究することは、親子間や夫婦間の役割を理解することにつながると考えられる。平成27年度は、親子間および夫婦間における共感を検討する前段階として、特性共感の認知メカニズムを明らかにするために、ロンドン大学ゴールドスミス校の大学生を対象にして、アレキシサイミア傾向およびサイコパス傾向を調査するための質問紙調査を実施した。階層的重回帰分析を用いて、アレキシサイミア傾向の高い参加者とサイコパス傾向の高い参加者および感情的・認知的共感能力を測定した質問紙得点との相関を測定した結果、感情的アレキシサイミアと感情的共感はサイコパス傾向を予測するが、認知的アレキシサイミアと認知的共感はサイコパス傾向を予測しないということが明らかとなった。現在、本研究の結果を国際誌に投稿するための準備を進めているところである。
2: おおむね順調に進展している
親子間および夫婦間における共感を検討する前段階として、特性共感の認知メカニズムを明らかにするために、ロンドン大学ゴールドスミス校の大学生を対象にしての質問紙調査を実施した。その結果、感情的Alexithymiaと感情的共感はPsychopathic傾向を予測するが、認知的Alexithymiaと認知的共感はPsychopathic傾向を予測しないということが明らかとなった。親子間共感を検討する前に、一般大学生の共感性の傾向を明らかにしたことから、本研究課題における現在までの進捗状況は良好であるといえる。
今後は、自分の子に対する親の共感の心理・神経メカニズムを解明するfMRI研究を行う予定である。具体的には、自然科学研究機構生理学研究所 大脳皮質機能研究系 心理生理学研究部門 定藤研究室において、fMRI実験を行う。3T の MRI装置 (Allegra)を用いて、母親と父親それぞれの、自分の子に対する共感の性差を、脳賦活部位の類似性または差異を調査することにより、明らかにする。さらに、Dual MRI装置 (Verio)を用いて、子に対する母親と父親の共感の同期を検討する予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (3件)
Social Cognitive and Affective Neuroscience
巻: 10 ページ: 145-152
10.1093/scan/nsu126
http://www.psy.bun.kyoto-u.ac.jp/hattatsu/
http://researchmap.jp/manoyoko/?lang=english
https://www.researchgate.net/profile/Yoko_Mano