研究課題/領域番号 |
15J40022
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田尻 怜子 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞外マトリックス / 体型制御 / クチクラ / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
生物の多様な「かたち」の遺伝と進化は古今東西の人々の興味を惹きつけてきた。近年、細胞外マトリックス(ECM)の物理的性質が生物の形態を左右する可能性が注目され始めた。申請者は、ハエの外骨格~クチクラと呼ばれるECM~を構成するタンパク質Obstructor-E (Obst-E)およびCpr11Aが全身の体型を変化させうることを見出した。これまでの研究から、両タンパク質がクチクラの特殊な微細構造を作り出し、その構造がバネのように収縮力を生み出して個体の体型をかたちづくることが示唆された。 本研究では、①各タンパク質がクチクラの微細構造を制御する仕組み、②クチクラの微細構造がクチクラの収縮性を通じて体型を決める仕組み、の二段階の解析を通じて、ECM分子が「かたち」をつかさどるメカニズムの全体像を明らかにすることを目指している。 平成27年度にはまず、野生型個体とobst-E変異体の幼虫体表のクチクラを共焦点顕微鏡を用いて詳細に比較観察し、終齢幼虫のクチクラの内側にObst-E依存的に形成される畝構造を明らかにした。次に、Obst-E・クチクラの微細構造・クチクラの収縮力、の三者のあいだの因果関係を明確に示すためのモザイク解析を行った。幼虫表皮の中で野生型細胞とobst-E変異体細胞クローンが混在するモザイク個体を作製したところ、obst-E変異体細胞クローンの領域で局所的にクチクラの微細構造の形成不全が見られた。同様のモザイク個体を蛹期まで生育させた場合には、obst-E変異体細胞クローンの領域のみでクチクラの収縮不全が見られた。以上の結果は、幼虫表皮細胞で発現するObst-Eタンパク質がその細胞の直上のクチクラの微細構造を作り出し、その微細構造がクチクラの収縮力を生み出すことを支持している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Obst-E・クチクラの微細構造・クチクラの収縮力のあいだの因果関係を捉えることは、本研究において最も重要な課題の一つであった。それまでの解析では全身でobst-Eの機能が低下する変異体を用いており、obst-Eが全身的な作用を介して蛹の形に影響を与えている可能性(神経系・内分泌系を介して蛹化を制御する、など)を排除できなかったからである。今年度のモザイク解析の結果は、Obst-Eが局所的にクチクラの微細構造を制御し、それによってクチクラの収縮力が決まることを支持するものである。研究の土台となる結果が得られたため、本研究はおおむね順調に進んでいると考える
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今後の研究の推進方策 |
当初は最終年度に予定していたモザイク解析について明確な結果が得られたため、当初は1年目・2年目に予定していた研究内容(クチクラの微細構造の高解像度観察・Obst-EおよびCpr11Aの試験管内合成)を今後進める。
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