本研究では、栄養源認識と有性生殖開始をつなぐシグナル伝達経路の分子機構の解明を目標として、分裂酵母を用いて、真核生物に広く保存されたTORキナーゼ経路の解析を進めている。 本研究で、TORC1が有性生殖開始に関わる転写因子Ste11をリン酸化することを見出したので、平成29年度はこれをまとめて論文に発表した。 また、平成28年度に引き続き、tor2変異株と同様に栄養源が豊富な環境でも有性生殖を開始してしまうhmt (hyper mating and temperature sensitive)変異株の解析を行った。hmt変異株の原因遺伝子の多くがtRNA関連因子だったことから、窒素源枯渇時のシグナル伝達経路にtRNAが重要な役割を担っている可能性を考えて、研究を進めた。平成28年度に、tRNA前駆体の発現量が窒素源枯渇30分後に大きく減少することを見出したので、平成29年度は、さらに詳細にtRNA前駆体の発現量の変化を調べた。その結果、窒素源枯渇後短時間でtRNA前駆体の発現量が減少しだすこと、さらに、窒素源を再添加すると、速やかに窒素源枯渇前の発現量に戻ることが確認できた。また、hmt変異株でも、tRNA前駆体の発現量が減少していた。さらに、Tor2とtRNA前駆体の遺伝学的な上下関係を調べた。tor2変異株にtRNA前駆体を過剰発現してもtor2変異株の接合亢進の表現型は抑圧されなかったのに対し、hmt変異株に活性化型tor2を過剰発現すると、接合亢進の表現型が抑圧された。また、hmt変異株にtRNA前駆体を過剰発現すると、部分的にではあるが接合亢進の表現型が抑圧されることもわかった。 以上の結果より、窒素源に応答して有性生殖開始を制御するTORC1の活性調節においてtRNA前駆体が重要な働きをしていることが明らかになったので、これらを論文にまとめて発表した。
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