研究課題
背景:Gastric inhibitory polypeptide (GIP)は、腸管内分泌K細胞から分泌されるペプチドホルモンであり、強力な催肥満作用が明らかとなっている。しかし、腸上皮細胞の中でK細胞は極めて希少であるがゆえにGIP合成・分泌の機構はいまだ不明な点が多い。これまでにK細胞を可視化したGIP-GFPマウスを作製し、K細胞に転写因子Regulatory factor X (Rfx) 6が高度に発現していること、高脂肪食負荷肥満状態でGIP分泌が亢進しRfx6発現が強く誘導されることを報告している。目的:GIP遺伝子発現に関与する Rfx6の転写共役因子群を同定しGIP遺伝子転写制御機構の解明を目指しており、GIP制御による抗肥満作用を有する糖尿病および肥満の新たな治療法の開発につなげたい。方法:In vitroで、GIP遺伝子やRfx6遺伝子を発現しているK細胞モデルであるマウス腸管内分泌腫瘍株STC-1を用いた。Rfx6とRfx3のsmall intefering RNA(si NA) による共抑制またはexpression plasmidによる共過剰発現を行い、GIP遺伝子発現の変化を評価した。成果: Rfx6の抑制によってはRfx3発現に変化を認めなかったが、Rfx3の抑制によってRfx6は有意に発現が抑制された。しかし、Rfx6とRfx3共抑制によってはRfx6単独でのGIP遺伝子発現抑制と比較して変化を認めなかった。 次に、IRESベクターを用いてRfx6とRfx3の共過剰発現によるGIP遺伝子発現の変化を測定した。Rfx6過剰発現によるGIP遺伝子発現亢進は再確認されたが、Rfx6とRfx3の共過剰発現によってもGIP遺伝子発現はRfx6単独過剰発現時と比較して同程度であった。 以上の結果から、STC-1においてRfx3はRfx6遺伝子発現への関与は示唆されるが、Rfx6とRfx3のGIP遺伝子発現への共役は示されなかった。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度はマウス腸管内分泌腫瘍株STC-1を用いてRfx6とRfx3の共役によるGIP遺伝子発現への関与を評価した。これまでのGIP-GFPヘテロマウス(GIP-GFP KIgfp+/-)を用いたK細胞解析結果から、Rfx6のみならず同じくRfxファミリーであるRfx3のK細胞における発現を確認していた。STC-1を用いて、転写因子Rfx6と他のRfxファミリーとの二量体形成によるGIP遺伝子発現調節の確認を行った。Rfx6は他のRfxファミリーと共役しながらGIPの合成・分泌に関与しているという仮説を検証したが、K細胞に発現を確認したRfx3とRfx6 の共役は証明されなかった。一方で、質量分析法によるRfx6の新規co-factor同定のための実験系を確立しつつある。また、平成28年度に予定していたGIP-GFPマウスを用いた短期高脂肪食負荷によるK細胞発現遺伝子の評価はすでに進んでいる。すでにIn vivoでは、GIP-GFPヘテロマウスに高脂肪食負荷を行い、体重差のない非肥満状態において経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)または経口脂質負荷試験を開始している。K細胞を用いたRNAシークエンス解析も予定していることから、期待ほどではないがある程度の進展はあったと評価できる。
K細胞における転写因子Rfx6の機能解析および高脂肪食負によるRfx6を介したGIP分泌亢進機構の解明を引き続き検討していく。今後は、同細胞株を用いて質量分析法マススペクトロメトリーによるRfx6の新規転写共役因子の検索・同定を行うことを予定している。Rfx6にFLAG-tagを結合したRfx6-FLAG plasmidを用いてRfx6過剰発現STC-1を作製し細胞核分画の粗精製を行い、精製産物をLC/MSによる解析を行う計画である。また、高脂肪食肥満状態におけるGIP分泌亢進は既に報告したが、短期の高脂肪食負荷による非肥満状態におけるGIP分泌の評価を開始している。今後は、RNA シークエンスにより短期高脂肪食負荷非肥満状態のK細胞における遺伝子発現プロファイルも評価する予定である。
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糖尿病
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