本研究の目的は、日本における将来的な移民労働者の拡大をめぐる構造的要因とその影響を実証的に明らかにすることである。特に、建設分野に焦点を当て、目下、緊急施策が取り組まれている「外国人技能実習制度」「外国人建設就労者受入事業」を対象とする。具体的な研究課題は以下の4点―移民政策と労働市場政策の形成論理を解明すること(課題1)、受け入れ実態を明らかにし、政策の有効性、制度上の意図と実践の乖離、社会的結果について考察すること(課題2)、国際的な技能形成システムの国内外の労働市場への影響を考察すること(課題3)、労使関係再構築における移民労働者の役割を考察すること(課題4)である。 平成28年度は、課題2と3に重点を置き、国内外における調査研究を以下の通り実施した。第一に、国内調査に関しては、二つの企業(受入れ企業1社と現地訓練校提携企業1社)に対して聞き取り調査等を実施し、ベトナム調査予備会合を設けた。また研究対象を労組や社会運動側にも広げ、定例会参加を通じて制度実態について認識を深めた。第二に、送り出し国ベトナムを対象として、短期的な現地調査を実施した。第一回調査(2016年9月7日~10日)では、ホーチミンとハノイの2都市で、送り出し機関附属訓練校2校における聞き取り調査と実習候補生に対する質問票調査(127票)を実施した。第二回調査(2017年3月14日~17日)では、ホーチミンで、送り出し機関附属訓練校1校、送り出し自治体1機関、および実習生家族の実家訪問・視察および聞き取り調査を実施した。調査を通じて、建設分野における技能実習生の拡大は、二国間政府による推進策の影響が強く、現段階は、自発的あるいは個人の社会関係ネットワークによるものというよりも、越境的な移動を促すフォーマルな勧誘段階にあるとともに、そこでの政府認可の民間仲介機関の果たす役割が明らかとなった。
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